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ラインケアって何をするの?部下のメンタル不調に気づき、介入するための「3つのステップ」

「ある日突然、大事な仕事を任せていた部下が出社しなくなる。数日後、精神科でうつ病と診断を受けて『休職が必要』という診断書が提出される」

こんなことが現実に起きたら、どうなるのかを想像してみてください。

休職に入る部下の業務の引継ぎやメンバーへの説明、仕事の振り分け、顧客対応など、管理職には怒涛のごとく業務が押し寄せます。
また、業務を引き継ぐ他のメンバーも突然のことに動揺し、心身ともに大きくエネルギーを奪われます。

人手不足で日常的に強い負荷にさらされていたチームが、一人の休職がきっかけで他のメンバーの負荷が増え、ドミノのように休職者が続けて発生する。最後は管理職まで過労で出勤できなくなる。
嘘のような話に聞こえるかもしれませんが、これは決して珍しいことではありません。

パーソナル総合研究所の推計では、日本では2030年には644万人の人手が不足することがわかっています。これから深刻な人手不足を迎える企業にとって、社員一人ひとりの健康管理が今まで以上に重要になることは言うまでもありません。
労働市場の未来推計2030-パーソナル総合研究所

だからこそ、企業にとってはリスクの高いメンタルヘルス問題の予防に、会社を挙げて取り組むことが求められます。

もしあなたが職場の管理職または人事担当者であれば、「ラインケア」という言葉はご存知ですか?

「ラインケア?初めて聞く言葉だな…」という方は、お勤めの職場がメンタルヘルス対策に取り組んでいないか、まだまだ管理職に意識が浸透していない状態だと言えます。

「ラインケア」は、メンタルヘルス対策に取り組む職場にとって最初に学ぶべき基本です。

今回のブログでは、「ラインケア」を切り口に、職場のメンタルヘルス対策における管理職の役割を説明しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら


ラインケアとは

まず、職場がメンタルヘルスケアに取り組むために必要なこととして覚えていただきたいのが、厚生労働省の「心の健康の保持増進のための指針」で示されている「4つのケア」です。

  1. セルフケア
  2. ラインケア
  3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
  4. 事業場外資源によるケア

1のセルフケアは、社員が自身の健康を維持するため、ストレスに気づき対処をしていくことです。

2のラインケアは、管理監督者が社員に行うケアのことです。社員が健康に安全に働くことができるように職場環境の把握と改善に努めたり、相談対応を行ったりすることなどがそれに当たります。

3の事業場内産業保健スタッフ等によるケアは、産業医や保健師など、社内の専門家を活用するケアのことを言います。

4の事業場外資源によるケアは、外部の相談機関や専門家(私のようなカウンセラーがそうです)を活用し、その支援を受けることを言います。

これらの4つのケアを整えることが、職場のメンタルヘルスケアを推進するために必要なことだと言われており、そして、この中でも最も重要になるのが「ラインケア」になります。


なぜラインケアが必要なのか。

「確かに管理職が部下のケアをするのが大事なのはわかります。でも、一番大事なのはセルフケアですよね?」

管理職の方からはよくこんなお声をいただきます。確かに、社員が自分の健康を自分で守ることは当然のことで、「最も重要なのはラインケア!」と言われてもピンとこない人が多いのは無理もないことです。

では、そんなあなたに質問です。もしあなたが、風邪をひいて高熱が出たらどうしますか?

「病院に行きます」「市販の薬を飲んで寝ています」

きっとこんな風に答える方が多いと思います。では、次の質問をします!

寝つきが悪いし、寝てもすぐに目が覚めてしまい疲れがとれない。気分は常に憂うつで食欲もない。仕事をしていてもボーっとして集中できない。こんな状態が1か月も続いたら、どうしますか?

どうでしょうか。「精神科に行きます」「かかりつけ医に相談してみます」と答える人もいるとは思いますが、大半の人が「どうしていいのかわからない」という状態に陥ります。

うつ病なのかもしれないとか、精神科や心療内科に行ってみた方が良いのかもしれないと思うことはあっても、「精神科といってもどこを受診したらよいのかわからない」「精神科の薬って飲んでも大丈夫なの?」「自分の心が弱いだけで、まだがんばれるのではないかな」などと様々な葛藤が駆け巡り、風邪のようにすぐに専門家を頼れる人は少ないのです。

また、限界を感じて精神科を受診しようと決めても、実際のところ精神科は予約制がほとんどで、すぐに診察を受けることができません。初診まで2~3週間待つことは珍しいことではなく、その間にどんどん病状が悪化していきます。

ここまで読んでいただけると、メンタルヘルス問題に関してはセルフケアだけでは不十分だということが理解できるのではないでしょうか。

つまり、社員に日常的に接している管理職が、部下の不調にいち早く気付き、介入してくことがとても重要なのです。


部下の不調に気づき、介入するための「3つのステップ」

ここから、ラインケアを実践するための具体的な手順を解説していきます。

 ① 変化に気づく

健康問題を抱えながらも無理をして仕事をしていると、当然ですが仕事やコミュニケーションなどに様々な変化が生じます。

管理職は、その部下の「いつもと違う様子」に気づくことが必要です。以下、メンタルヘルス問題を抱える人に生じやすい異変を「パフォーマンス」「コミュニケーション」「表情・身だしなみなど」の三つに分けて紹介します。

パフォーマンス

・欠勤、遅刻、早退 ・ミス ・面倒な仕事を後回しにする ・顧客トラブル ・能率の低下 ・席を外す回数が多い

コミュニケーション

・無口 ・挨拶をしない ・イライラしている ・多弁、ハイテンション ・ネガティブ発言 ・オンライン時にカメラをオフにするようになる

表情・身だしなみなど

・服装がだらしなくなる ・不衛生 ・顔色が悪い ・休憩中にずっと寝ている ・食事をとっていない ・泣きながら仕事をしている

このような部下の「いつもと違う」に気づくために大切になるは、当たり前のことではありますが「いつもの部下の様子を知る」ことが大前提です。

そのためにも、パフォーマンスだけでなく部下の人間性や気持ちにも関心を持ち、日常的にコミュニケーションを増やしていくことが大切です。

 ② 声をかけて話を聞く

部下の異変に気づいたら、声をかけて話を聞きます。声をかける時に心がけてほしいポイントは、「主観」と「客観的事実」を使い分けることです。

▶「主観」と「客観的事実」を使い分ける。


「最近、元気がないよね」「ネガティブだし、疲れているように見えるよ」

このメッセージは管理職の主観であり、部下の様子を見た感想を伝えていることになります。

これが悪いというわけではありませんが、主観の場合、部下から「大丈夫です」「何ともありませんから」と言われてしまうと、それ以上は踏み込めなくなりますよね。

「先月から欠勤が4回あったのと、先週はミスがあったから、心配に思っているんですよ」

このメッセージは客観的事実です。
主観とは違い、部下にとっては否定しようがありませんから、踏み込んだ話がしやすくなります。

主観だけに偏ると話が進みませんし、客観的事実ばかり並べ立てると部下は責められているように感じてしまうかもしれません。双方のバランスを意識し、声をかけていくことが大切です。

▶主観を伝える際は、「決めつけ」にならないように注意する。


「最近、ネガティブだし元気ないよね」

この言い方は部下からすれば「ネガティブだ」と決めつけられたように受け取れます。
日頃、部下が上司のマネジメントに不満を抱いているケースもありますから、このような言い方はリスクが高いので避けましょう。

上司に不満を感じてる部下は、「誰のせいだと思っているんだよ!」と不満を強めることにつながりかねません。

「最近、元気がないように(私は)感じるんです」

このように、主語を「私」にして、あくまでも自分の印象であることを伝えることを心がけましょう。これにより、安全な距離感を保ちながら主観を伝えることができます。

 ③ 専門家につなぐ

部下に声をかけて話を聞き、メンタルヘルス問題を含む健康問題が疑われたら、産業医などの専門家につなぎます。

部下に声をかけた時の反応として、「体調不良を申告してくれるケース」と「体調不良の申告がないケース」の2パターンに分かれることが想定できますので、ここからパターン別に対応を解説していきます。

▶体調不良を申告してくれるケース

「実は最近仕事のプレッシャーが強くて、家に帰っても仕事のことばかり考えてしまって、なかなか眠れないんです」
「一か月くらい前からなんか疲れがとれなくて、ずっと体調が優れないんです」

こんなふうに、部下が体調不良を申告してくれたら、産業医面談などを勧めやすいですよね。

「それは心配ですね。そしたら、一度産業医面談を受けてみてください」
「産業医の先生の見解を聞いて、職場でも可能な限りサポートしたいと思います」

こんなイメージで伝えてください。

一時的な体調不良の場合は様子を見て良いと思いますが、それが2週間以上継続していて改善が見られない場合は専門家につなぐことを意識してください。

●専門家への相談に抵抗を示したら、経過観察期間を設ける。

「産業医面談を受けてみてください」「社内のカウンセラーに相談してみてください」

上司からこう勧められて、すぐに「わかりました」と言ってくれる人もいれば、当然ですが抵抗を示す人もいますよね。

産業医面談などを受けて大ごとにされたくないという気持ちは理解できますから、無理に受けさせるよりも一度本人の意思を尊重して、経過観察期間を設けるというのも有効な方法です。

「そしたら2週間後にもう一度話しましょう。そこで状況が変わっていなければ産業医面談を受けてもらいます」

このように伝えます。経過観察期間は、部下の状況にもよりますが2~4週間くらいを目安にしましょう。

注意点としては、経過観察期間中に部下のパフォーマンスの問題が改善されているのかもきちんと点検しておくことが大切です。

例えば、部下が「もう眠れるようになりましたので、大丈夫です」と言ったとしても、ミスや欠勤などのパフォーマンスの問題が改善されていなければ産業医面談は必要です。

「眠れるようになったのは良かったです。ただ、ミスや欠勤が変わらず続いていますから、職場としてはやはり産業医面談を受けてもらう必要があります」と伝えます。

▶体調不良の申告がないケース

体調不良の申告がない場合は、職場として改善してもらう必要のある「目に見えるパフォーマンスの問題」を切り口に対応します。

「この2か月で月曜日に休むことが3回あったし、ミスも増えているよね。先週も今までなかったような報告漏れがあったから、心配しているんです」
「自分でも原因がわからないようなら、一度産業医に相談してみてください」

このようなイメージで伝えます。

そう伝えても、当然ですが専門家への相談に抵抗を示す人はいるでしょう。
その場合は先ほど紹介したように経過観察期間を設けて、パフォーマンスの問題が改善されているかを点検しましょう。

「じゃあ、1か月様子を見ますから、それでも改善されていない場合は産業医面談を受けてください」

▶部下との関係を良好に保つために、主語を使い分ける。

専門家につなぐ声かけは、部下にとって都合の悪いケースも多々ありますから、部下との関係を良好に保ちたい管理職からしたら、負担に感じてしまいますよね。

せっかく部下のことを思って声をかけたのに、それがきっかけで関係が壊れてしまっては元も子もありません。かといって、メンタル不調を防ぐためにも伝えるべきことを伝えなければなりませんし、悩ましい問題です。

そこで活用してほしい声のかけ方として、「主語の使い分け」を紹介します。

例えば、部下が産業医面談に抵抗を示した場合、

「まあ、確かに大ごとにしたくないよね。私としては気持ちはよくわかるよ」
「でも、会社としては今の状況が続くのは困るから、改善してもらう必要があるんですよ」

このように、主語を「私」と「会社(職場)」とで使い分けるのです。

こうすることで、関係を良好に保ちながら(もちろん絶対ではありませんが)、部下にとって都合の悪いことを伝えることができます。


ぜひ試してみてください。


最も大切なのは、管理職が問題を抱え込まないこと。

ここまで、ラインケアの基本的な説明を行いましたが、これらは管理職がたった一人ですべて行う必要はありません。

上司や人事担当者、また産業保健スタッフ等に適宜共有し一人で抱え込まずに対応することを意識してください。

もし社内に産業医や保健師などの専門家がいない場合、当方でコンサルティングから社員とのカウンセリングまで対応いたします。

経営者・管理職・人事担当者が利用できる無料相談も行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。いつでもお待ちしております。

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公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。講師としての経験も豊富で、企業や公的機関において15年以上に渡り、メンタルヘルス、ハラスメント、コミュニケーションなどをテーマに講演を行っている。
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