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社員からパワハラ被害の相談を受けたら、必ず読むべき職場の対応マニュアル

社内にパワハラ窓口があるので相談してみたんです。でも、話を聞いてくれるだけで全く何もしてくれませんでした。パワハラをしている部長が怖い人だから、人事担当者も怖がっていて対応したくないような感じでした…

今でもこのような相談はよく受けますが、これではパワハラがなくなりませんよね。

パワハラ被害を受けている社員が勇気を出して相談をしたのに、会社が何も対応をしてくれないというケースは、被害者にとって強い恨みに繋がりますので危険です。

パワハラがどんなにひどい内容でも、会社が被害者に寄り添って必要な対応を行えば、会社が恨まれるリスクは大きく減少します。逆に、会社が何も対応をしなかったり、下手にパワハラ行為者を守るような対応をしたりすると、恨みになり「会社をこらしめてやる!」と労災申請に動くリスクが上がります。

だからこそ、パワハラ被害を訴える社員への対応はしっかりと押さえておく必要があります。

今回の記事では、実際にパワーハラスメントの被害を訴える社員が出た際に、職場としてどのように対応をすべきなのか、その基本をまとめておりますので、ぜひ読んでみてください。

◆参考:職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)


被害者が「なにを望んでいるのか」を確認する。

被害者からヒアリングを行う上で、当たり前のことですが最も大切なのは「話を聞く意識を持つこと」です。

基本的なことですが、人の話を聞く時は話を遮らず、相手の気持ちを想像しながら十分に耳を傾けましょう。

「え?なんか話が被害的じゃない?」「ちょっとネガティブに受け止めすぎてないかな…」

被害者の話を聞いていると、こんなふうに感じることもあるかもしれません。

ただ、ヒアリングはあくまでもヒアリングであり、管理職や人事担当者が個人の見解を語る場ではありません。

話を遮って「あなたにも問題がある」とか「どの会社に行ってもパワハラっぽい人はいるからね」といったことは決して言わないように注意しましょう。

まずは相手の話を最後まで聞き、内容や気持ちを理解することを意識しましょう。

その上で確認すべき最も大切なことは、「被害者が会社にどんな対応を望んでいるのか」を知ることです。

被害者によって、会社に対して望むことはそれぞれ違います。

このように、人によりニーズは様々ですから、まずはそこを確認することが重要です。

ここの確認をおろそかにすることでトラブルにつながることも実際あります。

本人は「まずは話を聞いてもらって、これからどうするかを少しずつ考えたい」と思っていたのに、会社から行為者にいきなり注意をしてしまうような対応がそれです。

結果として、被害者はより働きづらくなり、会社への不信感や恨みを募らせることにもつながりますので、十分に注意しましょう。


被害者からのヒアリングは、安全な場所で行うこと。

被害者からのヒアリングでは、主に以下のことを確認します。

  • いつ、どこで、誰から、どんな被害にあったのか
  • その被害により、どんな気持ちで過ごしているのか
  • 目撃者はいるのか
  • 体調など健康面への影響はあるのか
  • 職場にどんな対応を望んでいるのか

その大前提として大事なのは、被害者が「安心して話ができる環境を整えること」です。

ヒアリングは、被害を具体的に確認するため、ハラスメントの詳細を語ってもらわなければなりません。

かなりデリケートな話になりますから、被害者本人が安心して話ができる環境づくりが本当に大切なのです。

言うまでもないことですが、人の出入りがなく、話し声が外に漏れることのない部屋を用意しましょう。

今なら在宅でオンラインで行うのも良い方法かもしれませんが、その時もイヤホンをつけて、周囲に声が漏れていないことが目に見えてわかるようにしてあげる配慮も大切です。

他に気をつけるべきこととして、セクハラの被害を訴える方には、必ず同性の人(女性が被害者なら女性)もヒアリングに同席させるなどの配慮が大切です。

男性の担当者が女性のセクハラ被害者に1対1でヒアリングをするというのは被害者にとっては負担が高いので気をつけましょう。(男女が逆の場合も同様)


安心して相談を続けられる環境を整える。

被害者に安心して相談を継続してもらうために特に必要なことは、次の二つです。

  • 秘密を守ること
  • 窓口を決めること

    単純なことなのですが、これを怠ることでトラブルになりますので、注意してください。

    例えば、もし人事担当者であるあなたがパワハラ被害の相談を受けた時に上司と共有したいと思ったら、そのことを必ず被害者に伝えて了承を得ましょう。

    とても大事な話だから、今聞いた話を全て部長とも共有したいと思うんだけど、大丈夫ですか?部長以外には絶対に話さないし、秘密は必ず守るから安心してください。今の時点で部長に伝えてほしくない内容があるなら、遠慮なく言ってください。


    パワハラについての情報収集を行う。

    人事から呼び出されて、〇〇さんがパワハラしてないか質問されちゃった!

    このような噂が広まると大変です。

    被害者も行為者も働きづらくなり、会社への不信感が一気に増します。

    だからこそ、目撃者などにヒアリングをする際には、秘密を守ってもらえるようにきちんと協力を依頼しましょう。

    それをせずに、聞きたいことだけ質問していておいて「何でもないから、気にしないで」みたいな中途半端な対応は危険です。不審がられ、すぐに噂になります。

    加えて、当たり前のことですが、情報提供に協力してくれた社員のプライバシーも守ることを必ず伝えましょう。

    行為者にフィードバックする際、「AさんもBさんもあなたが怒鳴っているのを見たと言っているよ」と個人名を出されたら、せっかく協力した社員はたまったものではありません。

    そのことで新たなトラブルになりますし、以後何かあった時に協力してくれなくなります。

    また、「あの人ってパワハラする?」みたいに、安易にパワハラという言葉を出すのもお勧めしません。

    パワハラのヒアリングという噂が広まるリスクがありますし、加えて「パワハラ」「セクハラ」という言葉は抽象的で具体性を欠きます。

    ヒアリングですから、具体的な事実を確認するべきです。

    「〇〇さんが時々感情的になって部下を傷つけるようなことを言うという話を聞いたんだけど、人事としても心配だから事実確認をさせてほしいんですが」

    「先週は『役立たず』とAさんに言っているのを見た人がいるらしいんですが、あなたはその場にいましたか?」

    こんな風に、具体的な行動の事実を確認する質問をして、確実に情報を集めること。これが大切です。


    パワハラ行為者への対応

    被害者や目撃者からのヒアリングの結果、職場として「パワハラがあった」「行為者に注意して行動を改めてもらう必要がある」と判断した場合、当然ながら行為者本人と面談して話をする必要があります。

    ここでは、行為者への面接時の注意点について説明します。

    まず、大前提として認識してもらいたいのが、「行為者本人にはパワハラの意識がない」「悪意がない」場合が多いということです。

    「普通に指摘をしただけ。教育の一部」「自分だって若い時はこれくらいやられてきた」「そんなこと言われても、彼はほんとに雑だし、俺だって毎日大変なんだよ…」などと思っています。

    だからこそ、ここで頭ごなしに行為者を叱責してしまうようなことがないように気をつけましょう。

    行為者は、突然呼び出され、パワハラの話をされて困惑しています。

    そこで一方的に「あなたのやったことはパワハラだ!」と責め立てられたら、反省して行動を改めてもらうどころか、会社や被害者への恨みを募らせるだけの結果になることもあるでしょう。

    あくまでも目的は「行動を改めてもらうこと」です。

    そのために、ここでも大切なのは「話を聞くこと」です。

    一方的に断罪するのではなく、被害者や目撃者の証言に沿って事実を淡々と確認し、行為者の気持ちも十分に聞きましょう。

    中には、行為者もメンタルヘルス問題などを抱えていて、頭ではわかっていてもついつい感情的になってしまうようなケースもあります。

    そのような場合は、会社としても協力したいことを伝えて、今後のことを一緒に考えていくことが大切です。

    本人の言い分は十分に聞きながらも、「あなたにそのつもりがなくても、この言動はパワハラに該当しますので、改めていただく必要があって、お話する時間を頂いています」と落ち着いて伝えていくことです。

    また、被害者の希望に沿って配置転換などの対応をとる場合、または行為者に対して懲戒処分等の対応をとる場合も、職場の方針として落ち着いて明確に伝えましょう。

    私個人の意見ですが、行為者の方との面談は、2回くらいに分けても良いように思っています。

    その理由は、1回目の面談を終えてから少しインターバルを設けることで、行為者も気持ちの整理ができるからです。

    いきなりパワハラ行為者だと言われてしまって、落ち着いて自分の気持ちを話せる人はほとんどいないと思います。

    行為者の気持ちも大切にすることで、会社への逆恨みや、被害者への仕返しなどを防ぐことにもつながりますから、1回ですべて終えようとせず、じっくりと進める意識を持つと良いでしょう。

    パワハラ加害者にありがちな行動や考えのパターンを挙げてみますので、該当するようであれば、これに沿って本人に注意を促すと良いと思います。

    ●「〇〇に値する」という考え方をする。

    ミスをしてお客さんに迷惑をかけたんですよ?怒鳴られて当然じゃないですか!

    例:何度指摘しても同じミスを繰り返すから、怒鳴られて当然。(怒鳴られるに値する行動をしている、と考えて暴言を正当化する)

    ●自己主張が強くなりがちで、穏やかに指摘・注意をすることができない。

    え?昨日も言いましたよね?!聞いてました?

    例:「なんでやってないんだ!」「何度言ったらわかるの?」と感情的に責め立てる。または無視をしたり、口調は丁寧でも表情や態度が明らかに苛立っている。

    気がきかない彼の問題は、指摘して改善を促すべきなのはわかります。でも、だからといって感情的に責め立てていいことにはなりません。その考えを改めてください。

    今、私はあなたがとても怖く感じます。改めて欲しいのはまさにこれなんです。不満なことや納得がいかないことがあったら、普通に伝えてください。感情的になる必要はないんですよ。

    このようなイメージです。

    上記については以下のブログでより詳しく説明していますので、ぜひ読んでみてください。

    大事なのは「パワハラがあった事実」だけでなく、「被害があった事実」です。

    「あなたに叱責を受け続けたAさんですが、毎朝会社に向かおうとすると気持ち悪くなり、動悸がするようです」
    「寝つきも悪くなっていて、かなり仕事に支障が生じています」

    被害者にどのような問題が起きているのかを(もちろん被害者の同意を得て)伝えて、問題を認識してもらいましょう。

    ポイントは、「被害の大小に関わらず、被害が出ている事実が問題」ということです。

    被害が小さければいいというのではない。

    行為者の言動により、被害が生じたという事実。これが問題なのです。

    • 当面、○○さんの行動が改善したかどうかを職場としても注意して見ていく必要があります。
    • もし同じような言動が続くなら、そこは現場から私に情報が入るようになります。

    このようなイメージで伝えて、できれば3~6ヶ月くらいはフォローアップの面談を続けると良いと思います。

    職場が気を緩めて観察を怠ると、問題が繰り返される可能性が高いことを肝に銘じておくこと。

    また、悪質なパワハラであれば、行動が改善されなかった場合に会社としてどのような処分を検討しているかなどを本人に具体的に伝えましょう。


    被害者へのフォローアップ

    最後に大切なことは、「事後対応」です。

    つまり、被害を受けた社員への説明や再発防止のためのフォローアップ、職場としてのハラスメントを防止するための環境づくりなどがそれにあたります。

    丁寧な事後対応を怠ると、被害者をより傷つけるため注意が必要です。

    会社が調査を行った結果、ハラスメントの行為があったと会社が認めたのかどうか。

    会社がパワハラと認めた場合、会社がどのような方針を立て、ハラスメント行為を行った人にどう対応をしたのか。

    加えて、今後、ハラスメント行為が起きないようにどのように対応をしていくつもりなのか。

    被害を受けた社員に、誠実に、そして明確に説明しましょう。 この事後対応をおろそかにしてはいけません。

    参考までに、これまで実際にあった良くないケースを紹介します。

    ・会社が行為者を厳重注意したが、被害者には「もう何も心配しなくていいから」「とにかく安心して」「また困ったらいつでも相談してね」と抽象的な報告しかしなかった。被害者は、行為者の反応や、会社がどんな注意をしたのかが知りたくて質問したが、それでも「あなたが心配に思っているようなことはないから」としか言ってもらえず、より不安になり、同時に会社への不信感を募らせた。

    ・部署異動をさせてもらい安心したが、元の部署では行為者のハラスメントが直っておらず、自分の代わりに後輩が被害に遭っていた。会社からは「注意した」と説明があったものの、行動が改善されていないし、反省している様子が全く見受けられない。被害者は、会社への不信感と共に、自分の代わりに被害に遭う後輩に対する強い罪悪感に苛まれた。

    これらのような中途半端で曖昧な対応をとると、被害者は職場に不信感を募らせます。

    繰り返しますが、会社が誠実に、被害者に会社としての考えや対応のプロセスを説明すること。

    そして、被害者がハラスメントを訴え出たことによる何らかの不利益を被っていないか、どんな気持ちで過ごしているのかなど、対応後も定期的にフォローアップして確認すること。

    加えて、行為者側へのフォローアップも忘れずに行い再発防止に努めること。

    この事後の対応を大切にしましょう。

    ここまで、だいぶ長い記事になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。

    このブログ記事は、「被害者の訴えを聞いて、会社が調査したところパワハラの事実があったケース」の対応を解説しましたが、実際は様々なケースがあり、現場で対応を行う担当者にとっては頭を悩ませることが本当に多いのだろうと思います。

    そのような場合は、担当者だけで抱え込まずに専門家に相談をすることが大切です。

    Information

    日総研主催「モンスター職員対応セミナー」に登壇いたします。
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    公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。講師としての経験も豊富で、企業や公的機関において15年以上に渡り、メンタルヘルス、ハラスメント、コミュニケーションなどをテーマに講演を行っている。
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