ハラスメントに関連する相談はこれまでとても多く受けてきましたが、ここ数年、「何でもハラスメントと言われてしまうのでまともに注意ができない」「どこからどこまでがハラスメントなのか…」と言った管理職の悩みを聞くことが増えてきました。
中でも、「勤務態度が悪い社員に注意をすると、すぐに『パワハラですよ!』と反発されてしまう」と言った、いわゆる「ハラハラ(ハラスメントハラスメント)」で悩まされている管理職にも出会います。
部下の問題行動を注意したいのに、「ハラスメントですよ」という言葉で反撃に遭い、まともな指導ができないというのはとても苦しく困難な状況です。
それでは、このような場合、職場としてどのような対応が適切なのでしょうか。
今回のブログでは、職場としての心構えと対応について解説していきます。
まずは管理職から寄せられたご相談を紹介いたします。
※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら
目次
何を言っても「パワハラですよ」と言われてしまい、部下に好き放題にやられています。
前々から自分本位な行動をとる社員がいて、対応に苦慮しています。
みんなが忙しく働いているのに、まるで協調性がなくて、手を抜くことしか考えていません。
納期が迫っている状況で他のメンバーが忙しくしているのに平然と定時で帰るし、仕事を振ると色々と理屈をつけて断ろうとします。
去年、メンバーの一人が本人にキレて厳しく責め立てたら「パワハラを受けた!」と騒ぎました。
確かにキレた社員の言い方はきつかったんですけど、言い換えれば普段からそれだけ我慢していたということです。
そこまでの状況にしたのは管理職の私に責任があると思い、それから私が厳しく指摘するようにしたんです。
そしたら、事あるごとに「それはパワハラですよ」と言うんです。
指示した仕事を断るので、それは認められないと強く伝えれば「パワハラですよ」と言う。
みんなが休憩を取る暇もないほど忙しい時に、平然と休憩を取っているので指摘したら「パワハラですよ」という。
こっちもイラっときて少し強めな態度に出ると「パワハラですよ」「録音しますよ」です。
私の上司である部長にも相談していますけど、結局一緒なんですよね。
部長もパワハラ加害者にされてしまうのが嫌なのか、なんか関わってくれなくて。
私が相談すると面倒くさそうな顔をするんです。
前なんか、「ハラスメントにならないように言い方に気をつけてね」と言われてしまいまして…。正直、「そりゃないよ」と思います。
これから私はどうしたら良いのでしょうか…。
本当に出口の見えない苦しい状況です。
管理職にとって、部下から向けられる「ハラスメントですよ」と言うワードはとてもパワーがあり、それだけで動きを止められてしまいますよね。
加えて、今回のように上司も手助けをしてくれないとなると、まさに孤立無援で、不安や恐怖などのネガティブな感情に襲われて混乱するでしょう。
「このような状況にどう対応していくのか」という、いわゆる対応方法の解説の前に「上司と部下の関係性の理解」を深めてもらおうと思います。
今、この二人の関係に何が起きているのか?
この職場で何が起きているのか?
ここの理解がとても重要なので、解説していきます。
「支配・被支配の関係」とは?
私はケアマネージャーです。実は、うちの事業所の利用者の奥様がうつ病で通院しているんですけど、その人が「話を聞いてほしい」と言ってよく電話をかけてくるんです。
介護についてのご相談であればまだ良いのですが、個人的な悩み事などを延々と相談して、30分は電話を切ってくれませんし、長いと1時間近くとられることがあります。
忙しいし困るので電話を切ろうとすると「死にたいほど辛いのに、冷たい」「もし私が死ぬようなことがあってもいいの?」と責められて電話を切らせてもらえません。
うちも人手不足でただでさえ忙しいのに、このような電話は本当に困るんですけど、でも「死にたい」と言われてしまうとどうにもできなくて。もし本当に死んでしまったらと思うと、怖いです。
「死にたい」と言う人にどう対応したら良いですか?本当に死ぬことはありますか?電話を切ったら大変なことになりませんか?
私は普段、対人援助の現場で起きるカスハラやクレーマーについての相談を多く受けているのですが、上記のような相談は少なくありません。
この相談と、すぐに「パワハラですよ」と言う部下の相談について、共通点はわかりますか?
どちらも、同じ構造、同じ関係性で成り立っています。
「死にたい」という言葉をパワーに、利用者家族がケアマネージャーをコントロールする関係性。
「パワハラですよ」という言葉をパワーに、部下が上司をコントロールする関係性。
双方ともに、コントロールを受けるケアマネージャーと管理職が脅しに屈してしまい、暴力的な関係に巻き込まれていると言えます。
この関係性を「支配・被支配の関係」と呼びます。
コントロールを受け続ける人は、不安と恐怖で心を支配される。
このようにコントロールを受ける人は、相手に対する不安や恐怖で心の中を支配され、この関係から抜け出すことがなかなか難しくなります。
ケアマネージャーの事例では、こちらがどんなに助言をしても、不安で不安で仕方がないと「本当に死なないのか」「もし死んでしまった場合、訴えられたりしないのか」と、自分が安心できるまで質問を繰り返す傾向があります。
パワハラの事例も一緒です。
「本当に大丈夫でしょうか?」「もし外部の相談窓口に駆け込まれて、大ごとになることはありませんか?」など、絶対に大丈夫だという確証を得られて自分が安心できるまで行動がとれなくなります。
そうなると、部下の顔色を窺い言いたいことも言えなくなりますから、部下の支配下に置かれた関係が長期に成立してしまうことになります。
加えて、このように相手からコントロールを受けると怒りを蓄積しやすくなります。
「人が黙っていればいい気になりやがって!調子に乗るなよ!!」
我慢の限界を迎えて反撃に転じてしまい、それこそパワハラ行為につながってしまうリスクもあるでしょう。
この関係がいかに危険であるか、わかりますよね。
つまり、「パワハラですよ」というワードを武器に身勝手な行動をとる部下に対応をしていくには、この関係性からの脱却が必要なのです。
コントローラーは閉鎖的で風通しの悪い環境を好む。
相手をコントロールする暴力的な関係が継続していく背景には、「閉鎖的で風通しの悪い環境」が必然的に存在します。
上司である部長にも相談していますけど、結局一緒なんですよね。
部長もパワハラ加害者にされてしまうのが嫌なのか、なんか関わってくれなくて。私が相談すると面倒くさそうな顔をするんです。
前なんか、「ハラスメントにならないように言い方に気をつけてね」と言われてしまいまして…。正直、「そりゃないよ」と思います。
このように、部長が一緒になって対応をしてくれないことで、相談者である課長が孤立し、コントローラーとの二者関係が継続します。
今回のケースのみならず、退職者やメンタルヘルス問題に発展するほどのハラスメント問題が継続していく背景には、往々にして「閉鎖的で風通しの悪い環境」がセットになっています。
現場と人事担当者が不仲で連携ができない、ハラスメント行為者を注意できる人が誰もいない、みんな関わることが面倒で誰か一人に対応を押し付けている、などなど
このような環境自体が、被害者の孤立を招き、そして加害者は「行動をエスカレートさせても問題とされることのない環境」を手に入れるわけです。
孤立すると、当然ですが不安や恐怖などのネガティブな感情が増幅しますから、不安に振り回されて行動をすることになり、より暴力的な関係に巻き込まれていきます。
また、今回のように「パワハラですよ」と部下に指摘された時、上司としては「パワハラじゃないよ!」と真っ向から否定することが心情的に難しいですよね。
「ハラスメント問題」という切り口で考えれば、訴えられているのが自分なわけですから、そこで強く否定することでより問題がこじれてしまいかねませんし、やりとりを録音されているかもしれません。
そう考えると、この問題に管理職ひとりで立ち向かうのがとても困難であるということがわかるでしょう。
つまり、この困難な関係性から脱却していくには、「風通しの良い環境」を作ることが欠かせません。
ハラハラの被害に遭っている管理職を孤立させないように、さらに上の上司や人事総務部門とのネットワークを構築し、チームで対応していくことが必要です。
「パワハラですよ!」には「健全なコミュニケーション」で対応する。
課長、それはパワハラですよ!
え??えーと、その・・・
これがコントロールを受けている時のやりとりです。
「パワハラ」のワードが脅しのためのツールとして使われ、上司は手も足も出なくなっています。
まず、基本的な話に戻りますが、「パワハラという言葉はなんのためにあるのか?」ということから考えましょう。
「パワハラ」という言葉を使用する目的は、「安全な職場環境を築き上げるため」のものであるはずです。
それが、いつの間にか言葉が一人歩きしてしまい、昨今では訴えることが目的になって使用されることが増えました。
だから、管理職側も黒判定を受けないことにこだわり、「どこからどこまでがパワハラなのか?」という境界線を知りたがるのです。ガードをしっかり固めておきたいということでしょう。
このように、お互いが「白か黒か」というレベルでパワハラというワードを使っているから、「パワハラですよ」がコントロールの手段として使われてしまうということを押さえてください。
そして、今すぐにこの土俵から降りましょう。
課長、それはパワハラですよ!
そうですか。わかりました。良かったら、どんなところがパワハラだと感じたのか教えてもらえないかな?話し合えるなら話したいし、改善が必要であればもちろん改善します。
これ以上私と話すことに抵抗があれば、もちろん、部長やハラスメント窓口に相談してみてください。私からは今日中に部長に報告をしておきますね。
「パワハラですよ」と部下に言われることを別の言葉で置き換えれば、「安全に働くことができません」ということですよね。
だから、こちらもそれに対して誠実に、健全に対応します。
「白か黒か」ではありません。
そして、他の管理職や人事総務部門と情報を共有し、社内のマニュアルに沿って対応をしていきましょう。
管理職、人事総務部門、ハラスメント対応窓口など、それぞれが役割を果たして、風通しの良い対応を意識してください。
これを継続すれば、部下もこれまでのように上司をコントロールできないばかりか、被害を訴える行動そのものに責任が伴うことになりますから、多くのケースでは沈静化していきます。
仮に沈静化せずに継続する場合には、「ハラハラを繰り返す問題行為」として扱い、就業規則や服務規定を基に明確に改善を求める対応も必要でしょう。
このようにして、コントロールを受ける関係から脱却することができます。
ここまで、読んでみていかがでしょうか。
繰り返しになりますが、大切なのは被害を受けている管理職を孤立させず、しっかりとネットワークで対応することです。
職場がいかに機能しているかどうか、これが試される問題になります。
ぜひこのブログ記事を関係者で共有し、対応してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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