ブログ

酒の臭いをさせて出勤するアルコール依存症が疑われる社員への対応方法

今回のブログは、実際に寄せられた相談事例をもとに、社員の問題行動に対する具体的な対応方法を解説していきます。

まず、部下の問題で困っている管理職の方のお悩みを紹介します。

※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら


酒臭い部下がいて、困っています…。

部下の酒の問題で困っています。

40代の男性なんですが、ここ最近、酒の臭いをさせて出勤することが増えました。

もともと酒好きなのは知っていました。飲みに行くと酒のペースがすごく早いんですよ。

これまでも、たまに酒の臭いをさせてくることはあって、「すいません、昨日飲み過ぎちゃって…」なんて言ってました。

まあ、それでも年に数回だし「気をつけろよ」という注意レベルで済ませていました。

というのも、とにかく真面目だし仕事は一生懸命にこなす優秀なやつなんです。

お客さんからの評判もいいんですよ。「熱心にやってくれて助かる」とかよく言われています。

そんなこともあって、私も周りも「仕方ないやつだな」みたいな、そんな感じで接してきましたね。

でも、この3か月くらい、おかしいんです。

朝から酒臭いなと感じることがしばしばで、遅刻もするようになりました。

あとは、先週月曜日に朝から私と客先を訪問する予定だったんですけど、待ち合わせの駅で会ったらもう酒臭くて。

これじゃお客さんに会わせるわけにはいかないのでさすがに帰しました。

今までになく厳しく注意しましたし、本人も反省していました。

そこで懲りたのか、その週は酒の臭いはしませんでしたし、真面目に働いていました。

だからもう大丈夫かなと思っていたら、今週の週明けに遅刻してきました。

やっぱり酒臭くて、顔もむくんでいるし。

遅刻の原因は酒ではないのかと尋ねたら「いえ、体調が悪かっただけです」と。

単刀直入に「アルコール依存症じゃないのか。病院で診てもらったらどうか」とも伝えました。

そしたら本人にしては珍しく語気を強めて「さすがにそんなんじゃありません。大丈夫ですから」と言ってました。

でも、さすがに周りも異変に気づいています。

若い女性社員は明らかに距離を置くようになりましたし、今のままだとまずいです。

人事にも相談してまして、なんらかの処分も含めて検討しないといけない段階だと思っています。

でも、依存症ならちゃんと治療をさせてやらないと気の毒です。

なんせ真面目でいいやつなんです。それは誰もが認めるところで、期待していたんですよ。

この社員は依存症の可能性がありますかね?

どのように対応をすればよいでしょうか…

今回もとても悩ましい問題です。

酒の臭いをさせて出勤するというのは職場環境を悪化させる行為であり、さらにはミスや事故、クレームなどの様々なトラブルに発展する可能性も十分に考えられます。

注意をしても改善されないとなれば、職務専念義務違反などで処分の対象にもなる案件ではありますが、今回のご相談者が懸念しているように背景に「アルコール依存症」などの病気があれば、いくら処分をしても本人の意思だけでは改善は困難です。

これまでのようなパフォーマンスを早期に取り戻し、貴重な戦力として働き続けてもらうためにも、メンタルヘルス問題の可能性を考慮した対応も必要になります。


アルコール依存症とは?


まず、アルコール依存症とはどんな病気なのか、簡単に解説します。

アルコール依存症とは、一言でいうと「飲酒のコントロールが困難になる病気」です。

アルコールが抜けてくると手の震え、発汗、イライラ、不眠、幻覚などの離脱症状が出現し、それを抑えるためにまた飲酒をしてしまうという悪循環に陥ります。

進行すると生活の中心がお酒になり、家族関係や仕事、健康などに大きな悪影響を及ぼします。

社員がアルコール依存症になった場合、欠勤、遅刻、ミス、人間関係のトラブル、勤務態度不良などの様々な勤怠問題に発展します。

 アルコール依存症の治療

アルコール依存症の治療は、以前は「断酒」が大原則でした。

ただし、お酒が大好きな人に「あなたは依存症です。回復するには断酒しかないのでお酒をやめてください」と言っても、すぐに受け入れられる話ではありませんよね。

「自分が依存症のはずはない。もっとひどいやつはたくさんいる」「仕事のストレスが強かっただけで、酒をやめようと思えばいつでもやめられる」といったふうに受け入れず、治療を行わないために依存症が進行していきます。

実際、アルコール依存症の患者は全国で100万人以上いるとされているものの、「断酒」のハードルの高さから治療を受けるのは5%にも満たないと言われています。

そのようなことから、近年は「断酒」だけでなく、お酒の量を減らす「減酒」も治療の選択肢として積極的に取り入れられ、「お酒を飲みたい」という気持ちを抑えてくれる減酒薬も使われています。

断酒か減酒か、どちらに進むかは症状の重さや本人の意向などを含めて判断されます。

どちらに進むにしても、医師の指導のもとに通院、服薬、カウンセリングなどを継続していくことが大切です。

アルコール依存症及びアルコール関連問題については、以下のサイトで詳しく解説しています。
アルコール関連問題 | 特定非営利活動法人ASK


アルコール依存症が疑われる部下への対応方法

それでは、ここから職場での対応について解説します。

このような問題は、「依存症なのではないか」「依存症だとしたらどう対応したら良いのか」というふうに、どうしても病気の方に引っ張られてしまいがちです。

病気を切り口に対応しようとすると、「アルコール依存症」という得体のしれない問題を前に、「どう声をかけて良いのか」と難しく感じますよね。

そして、思い切って「アルコール依存症とかじゃないの?」「精神科を受診してみたらどうかな」と勧めても、ほとんどの場合が「そんなんじゃありません」「次からはこういうことがないようにしますので。大丈夫ですから」と言われることになります。

お酒の臭いをさせて職場に迷惑をかけている部下にこう言われると、ついつい「どこが大丈夫なんだよ!実際何度も迷惑をかけているじゃないか!」と言いたくもなるのではないでしょうか。

そのようなストレートな対応により、本人も渋々納得して精神科を受診してくれるケースもあるかもしれませんが、そこで上司部下の関係が悪化してしまうケースもあれば、「精神科を受診したら軽いうつと言われました。お酒は飲みすぎに気をつけるよう言われただけです」などと言われてしまうこともあり、職場は対応に戸惑うことになります。

このように、「病気かどうか」を切り口に対応すると、往々にして職場は手詰まりに陥るのです。(※これを「疾病性を切り口にした対応」と言います)

原則として押さえていただきたいのは、「病気」ではなく「業務を行う上で支障になっているパフォーマンスの問題」を切り口に扱うことです。(※これを「事例性を切り口にした対応」と言います)

✔ 出勤時に酒の臭いがすることが頻繁にある。(例えば、「この3か月で10回」など、具体的な方が良いです)

✔ 酒の臭いが原因で、大切な取引先との打ち合わせを欠席した。

✔ 複数の社員から、「酒の臭いが不快で働きづらい」などの訴えがあり、職場環境を悪化させている。

✔ この2か月で遅刻が4回、欠勤が1回あった。

当たり前のことですが、会社にとって問題なのは「病気」ではなく「パフォーマンスを発揮できないこと」です。

プロ野球選手の怪我で例えれば、選手にとっても球団にとっても、問題なのは「怪我」ではなく「試合でパフォーマンスを発揮できないこと」ですよね。

怪我をしていようと、試合に出てホームランを打っていれば年俸に影響は出ないわけで、「怪我の事実」自体で年俸が下がることはありません。

会社も同じように「病気」かどうかではなく、「パフォーマンス」を切り口に扱う必要があります。

ポイントとしては、パフォーマンスの問題は「本人にとって否定しようのない客観的事実であること」が大切です。

職場として改善してもらう必要があるパフォーマンスの問題を挙げて、明確に改善を求めましょう。


産業医面談や精神科への受診を勧める。

「今伝えたように、職場としては今のあなたの状況について問題に感じていて、改善をしてもらう必要があります」

「その上で、私はとても心配に思っています。体調が悪いとか、ストレスが強いとか、困っていることはありませんか?できる限り力になりたいので、困っていることがあればぜひ教えてください」

改善を求めるのと同時に心配な気持ちを伝え、部下の状況について詳しくヒアリングをしましょう。

その上で、社内に産業医やカウンセラー、保健師などの産業保健スタッフがいれば「まずは産業医面談を受けてみてください」などと伝え、専門家につなぎましょう。

社内に専門家がいなければ精神科・心療内科への受診を促してください。

部下に声をかけ、話を聞いて産業医や精神科につなぐ具体的な対応方法については、以下のブログ記事内の「③専門家につなぐ」を参考にしてください。


「アルコール依存症」と診断を受けなくても対応は変わらない。

「精神科を受診しました。軽いうつだと言われて薬をもらって、当面は2週間ごとに通院することになりました。お酒については先生から『ほどほどに』と言われました」

このように、精神科を受診しても依存症の診断を受けず、お酒について特別強い指導を受けなかったということもあるでしょう。

職場としては今後の対応に戸惑うような場面かなと思いますが、アルコール問題があっても依存症の診断がつくレベルではないケースは多々あります。

また、依存症専門ではない一般の精神科や心療内科の場合、主治医は診察でしばらく様子をみて、依存症が疑われると判断した場合には専門の医療機関に紹介をするというパターンもよくあります。

依存症の診断を受けようが受けまいが、職場の対応は「パフォーマンスの問題を改善してもらうこと」です。

ここの軸をぶらさずに、シンプルに考えて対応していきます。

① パフォーマンスの問題を改善してもらう必要がある。

② パフォーマンスの問題が改善されない背景に、メンタルヘルス問題がある。

③ メンタルヘルス問題を改善してもらうために通院治療が必要な状態である。

こう考えればスッキリしますよね。

なので、精神科に通院する場合、「酒量をコントロールできない問題の背景に、メンタルヘルス問題が関連しているのかどうか」ということが確認できれば良いと思います。

そして、関連性があるのであれば改善のために必要な取り組み(通院・服薬・カウンセリングなど)や見通しの確認が必要です。

加えて、職場として業務負荷の軽減などの配慮が必要かどうかも、主治医の意見を仰ぎ対応を検討しましょう。

補足ですが、アルコール問題の場合、主治医との連携はとても大切になってきます。

というのも、アルコール問題で精神科を受診する場合、「お酒がやめられないことに困って受診する人」と「自分ではそこまで困っていないけど、周りに問題にされて仕方なく受診する人」の2パターンに分かれます。

後者の場合、職場で問題になっていることについて、本人が正確に主治医に報告をしないケースも多々あります。

そのようなことを防ぐためにも、本人の了承を得た上で、産業医から主治医に手紙を書く、人事担当者や上司が診察に同席して主治医と情報共有するなどの対応も検討しましょう。


職場として許容できるレベルを明確にし、改善されない場合の対応を検討する。

精神科に通院を開始しても、お酒の問題がいつまでも改善されないこともまた、珍しいことではありません。

業務負荷を軽減し、服薬を開始し、前よりは明らかに良くなったように見える。

確かに遅刻も減ったし、初めの3週間くらいは調子が良さそうだった。

でも、先週はなんとなく顔がむくんでいて、「酒臭い!」というほどではないけどほんわりと臭った日があった…。

そして昨日は、明らかに酒の臭いをさせてきていた。

でも、治療中だし、許容するべき?厳しく指導するべき?

こんなふうに、悩んでしまいますよね。

まず、繰り返しになりますが、基本は「パフォーマンスの問題を改善してもらう」ことが目的ですから、「職場に酒の臭いをさせてくる」ということについては毎回きちんと指導して改善を促す必要があります。

その上で、改善が見られない場合、職場としても「通院中だから」という理由でいつまでも見守るだけでは、職場環境を著しく悪化させることにつながりかねません。

「さすがにこのような状態でいつまでも仕事を続けさせるわけにはいかないから、一旦休んで、お酒の問題が改善されるように体調や生活を整えてください」

このように、一定期間様子を見ても問題が改善されない場合は、一旦休職をさせて治療に専念させるなど、主治医や産業保健スタッフと連携の上で対応を考えていく必要があります。

依存症の診断を受けている場合は、休職してデイケアに通って依存症のプログラムを受けたり、入院治療を行ったりすることも選択肢になりますので、依存症の専門家とも相談のうえで検討していきましょう。

依存症の診断を受けていない場合は、依存症専門の医療機関へのセカンドオピニオンを受けさせるなども一つの方法だと思います。

依存症専門医療機関を探す場合に参考にしてほしいサイトはこちらです。
アルコール依存症治療ナビ.jp


ここまで、あくまでも基本的な職場の対応や心構えについて説明いたしましたが、読んでみていかがでしょうか。

「パフォーマンスの問題を切り口にシンプルに考えましょう」とは伝えましたが、実際に対応するとなると対応に悩む場面が多々あるはずです。

そんな時は、職場だけで抱え込まず、ぜひ専門家を頼ってください。

当方では経営者・管理職・人事担当者の方を対象に無料コンサルティングを行っております。

ぜひお気軽にご相談ください。

いつでもお待ちしております。

Information

日総研主催「モンスター職員対応セミナー(岡山・東京)」に登壇いたします。
・2025年2月1日(土)岡山(福武ジョリービル)
・2025年3月8日(土)東京(日総研 研修室)
詳細はこちら → https://www.nissoken.com/s/15282/index.html

The following two tabs change content below.
公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。講師としての経験も豊富で、企業や公的機関において15年以上に渡り、メンタルヘルス、ハラスメント、コミュニケーションなどをテーマに講演を行っている。
PAGE TOP