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パワハラを防ぐ!管理職のためのバウンダリー(境界線)基礎講座

今回は、パワハラなどのトラブルを防ぐためにぜひ参考にしてほしい、「部下との安全な人間関係の距離感」についての話をします。

当たり前のことではありますが、管理職になると、それまで職場で築き上げてきた人間関係が大きく変わります。

「とても仲の良かった後輩がいたんですけど、私が昇進したらなんか微妙な関係になってしまいました。私が心配症だから、口うるさい上司だと思われたみたいです。少し距離を置かれてしまって、前みたいにランチに行けなくて…。なんか寂しいです」

「もともと自分の意見をはっきりと主張する方で、それが自分の強みでもあったんですけど、管理職になってから怖いと思われてしまって…。前みたいに強く言えないんですよ。パワハラなんて言われたらたまらないですからね」

管理職という役割と責任により生じる人間関係の変化、そして管理職というパワーを持つことによるコミュニケーションの難しさなどを考えると、管理職の役割をストレスなく安全にこなしていくことは、今の時代は至難なことでしょう。

だからこそ、「部下を叱る際のNGワードを教えてほしい」「どこからどこまでがパワハラなんですか?」といったことを知りたいですよね。もちろん、NGワードを含めてハラスメントを防ぐ知識を吸収することはとても大切です。

ただし、残念ながらハラスメントは知識やテクニックだけで防ぐことはできません。

大切なのは、「部下との関係性」を正しく理解し、距離感を意識して行動することです。

今回のブログ記事は、人間関係の大原則である「バウンダリー(境界線)」を切り口に、部下との安全な人間関係の距離感について理解を深めていただきます。

部下との関係だけでなく、ご家族やご友人との関係にもそのまま当てはめることができますので、ぜひご自分の人間関係を振り返ってみてください。

※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら


バウンダリー(境界線)とは?

バウンダリー(境界線)とは、「自分」と「他人」を区別する人間関係の境界線です。

バウンダリーが守れていれば、「私」と「あなた」は全く別の人格で別の考えを持っているということを受け入れ、健康的で安全な人間関係を構築しやすくなります。

例えば、仕事でお互いに意見が分かれることはありますよね。

そこでバウンダリーが守れる人は、「私たちは別々の人間だから、意見が分かれるのは当たり前だよね」という考えをベースに相手とコミュニケーションをとることができます。

相手の人間性や考えを尊重して意見交換ができるわけですから、摩擦も生じづらくなります。

逆にバウンダリーが守れない人は、自分と相手の違いを受け入れることが苦手です。

「絶対に私の方が正しい」「あなたは間違えている」という白黒つけるようなコミュニケーションが増えていきます。

相手の話を聞くことができず、感情的になって大きな声で主張したり、あからさまに不満そうな態度をとったりするなど、相手への尊重を欠き、人間関係の摩擦が増えていきます。

どちらかと言えば、家族や恋人のように個人的な思いが強く反映されやすい関係になりますので、お互いにそれなりの信頼関係が築けていないとトラブルにつながりやすい距離感と言えます。

ここから、バウンダリーが守れない時に生じる関係性を解説していきます。


支配・被支配の関係

「力の強いもの」が「弱いもの」をコントロールする関係性を、支配・被支配の関係と言います。

まさにパワーハラスメントがこの関係です。

「管理職というパワー」によりコントロールを受け続けた部下は、恐怖や不安から、上司の顔色を見て行動するようになります。

「自分がどうしたいか、どう考えるか」ではなく「上司はどうしてほしいか、どう考えるか」が常に優先されるため、主体性が育まれず、成長(自立)を著しく阻害されます。

 怒りは強いものに向かい、パワハラは連鎖する。

毎日のようにコントロールを受け続けていると、自信や主体性が低下し、自分のことを惨めに感じるようになります。

「私って、何のために頑張って資格を取ったんだっけ…」
「なんでいつもこんな目に合わないといけないんだろうか…」

日々募る惨めさは「怒り」に変わることが多々あります。

怒りという感情は「強いものから弱いものに向かいやすい」という特徴があるため、上司に怒られたイライラを自分の後輩にぶつけてしまうなんていうことも起こり得ます。

結果としてパワハラが連鎖するだけでなく、家庭やパートナーとの関係など、プライベートにも大きく影響を及ぼすことがあります。

また、コントロールすることを教育と誤解してしまう職場は、「教育という名のコントロール」が連鎖していきます。

例えば、業績が上がらない部下を怒り、罵り、つるし上げるという方法でしか指導できない人はいますよね。

そのような指導を受けた部下もまた、コントロールを教育であると思い込み、自分が管理職になった時に「いいからやれよ」「おれだって乗り越えてきたんだ!」と同じように部下を怒ってコントロールしようとします。

「教える」とはどういうことなのかを教わっていないから、結果として教えられる人が育たないのです。

 チェックリスト「支配的な距離感になりやすい人の特徴」

▢ 自分の意見や考えは「絶対に正しい」と思う。
▢ 意見が分かれると、白黒つけるコミュニケーションになりやすい。
▢ 仕事でミスを犯した部下は、怒鳴られたり、傷つけられたりしても仕方がないと思う。
▢ 自分が怒ってしまうのは、「自分に怒らせるようなことをする部下に責任がある」と考える。
▢ 「それはただの逃げ」「甘えている」のように、部下を決めつけることが多い。
▢ 部下に対して、自分の落ち度を素直に認めて謝ることができない。
▢ 部下から反対意見を述べられると「否定された」「反発された」と被害的に受けとる。
▢ 「私は何日も徹夜して乗り越えたよ。どうしてそうしないの?」のように、自分を基準に物事を考える。
▢ 部下の人間性ではなく、パフォーマンス(成果や行動)ばかり見る。
▢ 感情のコントロールが苦手である。


共依存の関係

自分の存在意義を見出すために、過剰に相手の世話を焼くなどして、相手に必要とされる関係を作り出す関係性を「共依存の関係」と言います。

管理職が、「管理職として部下から必要とされたい」「嫌われたくない」「自分が上司で良かったと思ってほしい」という強い思いで部下と関わることになります。

共依存タイプの管理職は、基本的には部下思いの優しい人が多い印象がありますが、「部下に好かれたい」という思いが強すぎると、マネジメントに様々な支障が生じやすくなります。

✔ 嫌われたくないので、部下に注意ができない。
✔ 部下に任せるべき仕事にまで手を出すなど、過剰に世話を焼く。
✔ 自分のことを慕ってくれる依存的な部下を好み、一方で自立した部下に苦手意識を持つ。

「自分が安心するためのマネジメント」になりやすいので、結果として部下の力を奪い、成長を阻むことにつながります。

 部下への思いが強いがゆえに、ハラスメントにつながりやすい。

また、相手への思いが強すぎると、思い通りにいかなかった時に自分が傷つくことになります。

例えば、手塩にかけて育てたつもりの部下が異動希望を出したと知った時、「おまえのためにどれだけ時間をかけたと思っているんだ!」とキレてしまいパワハラなどのトラブルになるリスクもあるでしょう。

加えて、共依存タイプの管理職は、友達のような家族的な距離感を部下に求めることが少なくありません。

プライベートのことを必要以上に把握しようとしたり、飲み会などの業務外の交流を好んだりするため、注意しないとトラブルが増えます。

「部下は喜んで飲みに付き合ってくれる」「自分は部下のプライベートもきちんと把握している」と思っていても、部下は断り切れずに飲み会に来たり、プライベートな質問に答えているだけかもしれません。

無自覚にセクハラを繰り返してしまうリスクも十分ありますので、注意が必要です。

 チェックリスト「共依存の距離感になりやすい人の特徴」

▢ 「もっと自分を頼ってほしい。上司として必要とされたい」という思いが強い。
▢ 部下に嫌われるのではないかと思うと、不安で注意ができない。
▢ 部下同士が仲良くしていると、「自分は必要とされていないのではないか」と不安になる。
▢ 部下に感情移入して、情が移りやすい。
▢ 部下に何も頼まれていないのに、部下が望んでいるであろうことを想像し、先回りして行動する。
▢ 上司や同僚から「やりすぎ」「本人のためにならないよ」と部下への関わり方についての指摘を受ける。
▢ 部下とは、友達や家族のような親しい距離感でいたいと思う。
▢ 部下が困っていたら、すぐに解決してあげたい。
▢ 部下に頼られると、やたらと存在意義を感じてテンションが上がる。
▢ 部下が不機嫌だと、自分が何かまずいことをしてしまったのではないかと不安になる。

※関連記事:共依存を克服する方法


無関心

説明するまでもなく、相手に対する興味や関心を持たない関係が「無関心」です。

相手に対する関心が薄いわけですから、部下が今どんな思いで仕事をしているのか、どんなことに悩んでいるのか、体調はどうなのか、といったことに気づきづらくなります。

相談をされれば話は聞きますが、自分から部下の状態を把握するための行動をとることは稀です。

そのため、相談をすることが苦手な部下は問題を一人で抱え込むことになり、「突然出社しなくなって、そのまま休職してしまった」というような問題も増えやすくなります。

 人間関係にも無関心なため、ハラスメントを放置する。

カウンセリングの場面で労働者の相談を受けていると、「よくこんなひどいハラスメントを管理職は放置しておくものだな」と感じる場面が多々あります。

「うちの職場で、すごいパワハラの先輩がいるんです。その人はこれまでもペアになった人を追い込んで、何人も辞めさせてきているんですよ」

一人の社員が何年もハラスメント行為を繰り返すことができる最大の原因は、「会社が放置しているから」です。

人に無関心な経営者や管理職のもとでは、職場が無法地帯になりモラルがどんどん低下していきます。


バウンダリーを保ちやすい、安全な考え方

次に、「バウンダリーを保ち、安全な人間関係の距離感を構築しやすい考え方」を紹介します。

部下との距離感を点検する上で、ぜひ参考にしてみてください。

▢ 業務上の上下関係はあれど、上司と部下は対等である。
▢ 仕事に対する考え方やモチベーションは人それぞれ。
▢ 不満や怒りを伝えるために感情的になる必要はない。
▢ 私は管理職の役割と責任に基づいて、部下に関わる。
▢ 私は部下が自分で課題を解決できるように、手伝う。
▢ 私は部下と問題を分かちあい、一緒に取り組む。
▢ どれだけ一生懸命に関わっても、分かり合えないこともあるし、嫌われてしまうことだってある。
▢ 職場の指示に従うかどうかは社員が決めることであり、その自由と責任は社員にある。
▢ どうしても職場の方針に納得がいかなければ、それでも働き続けるのか、退職を選択するのか、その自由と責任は社員自身にある。


感情の強さはバウンダリーに影響する。

ここまで、バウンダリーについての基本的な話をしました。

「なるほど。バウンダリーの意識をもって部下に関わるって大切だな。支配的な距離にならないように、共依存もよくないし、適切な距離感を保てるようにしよう!」

このようにバウンダリーについて頭で理解をして、いざ行動に移そうと思っても、なかなかうまくいかないということが多々あります。

それもそのはずで、バウンダリーを頭で理解しても、感情のコントロールがうまくいかないと安全な距離を保つことができません。

バウンダリーを保つためにも欠かせないことが、「ネガティブな感情と付き合う力を持つこと」です。

感情のコントロールがうまくいかない、怒りや不安と付き合うことがどうしても苦手だという方は、カウンセリングを利用するなど、専門家に相談することがお勧めです。

※関連記事:「思考」と「感情」の違いがわからないと、ストレスが倍増する!


大切なのは、バウンダリーを「保つこと」ではなく「意識すること」

バウンダリーを学ぶと、「今の関係ってバウンダリーを保たているの?」「今度の新人との関係はとてもうまくいっているように感じるけど、距離近すぎ?これって良くないのかな?」などと混乱してしまうことが多々あります。

最後にお伝えしたい大切なことは、私は「お互いの安全のためにバウンダリーを保ちましょう!」と言いたくてバウンダリーの説明をしているわけではありません。

というのも、職場の環境や在り方はそれぞれで、家族的で親密な距離感でとても良い関係を築き、うまく回っている会社もあるはずです。

お互いがそれで気持ちよく働けるなら、それは素晴らしいことですよね。

また、コントロール的な距離感で部下を指導しなければならない状況もたくさんあるでしょう。

どんなに厳しい指導を受けても、信頼関係が築けていれば、部下は「上司は私のことを思って言ってくれるんだ」と思えますよね。

だからこそ、大切なのはバウンダリーを「保つこと」よりも「意識すること」です。

「今は友達みたいな関係でうまくいっているけど、気を付けないとな」
「今日はけっこう厳しいことを言ってしまったな。大丈夫かな」

管理職がこのような意識を持つことで、状況に応じて距離感を調整することができますよね。

このように、日頃の部下との関係を点検し、柔軟に関係性を調整できることを目指しましょう。

お勧めしたいのは、職場としてバウンダリーを学び、管理職同士で声を掛け合い意識を高めていくことです。

バウンダリーを職場で共有し、より安全な職場づくりを目指したい方は、ぜひ社員研修のご依頼をいただければと思います。

お申込み、お問い合わせ、いつでもお待ちしております。

※関連記事:ストレスに強くなる!人間関係の境界線(バウンダリー)の引き方




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公認心理師・精神保健福祉士。精神科・EAP機関・カウンセリングルーム・学校などで、2万件以上の相談を受けてきたカウンセラー。講師としての経験も豊富で、企業や公的機関において15年以上に渡り、メンタルヘルス、ハラスメント、コミュニケーションなどをテーマに講演を行っている。
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