「ハラスメントの加害者にカウンセリングを受けさせてほしい。二度と再発しないよう、しっかりと改善させてほしい」
こうしたご依頼を、年に数回いただきます。
とてもありがたいご依頼ではありますが、私は二つ返事でお引き受けすることはありません。
まずはご依頼の担当者の方と、じっくりとお話をさせていただくことから始めます。
なぜ、そこまで慎重になるのか。
それは、ハラスメント加害者のカウンセリングが、とても難易度が高く特殊なものだからです。
私自身、日々この問題に向き合う中で痛感しているのは、カウンセリングという場が持つ本来の機能と、職場が期待する「魔法のような解決」の間にある、決して小さくないズレです。
このカウンセリングを意味のあるものにするためには、依頼主である「職場のスタンス」が極めて重要になります。
職場側がこの問題にどう向き合うか、その覚悟が整っていないまま形だけ進めても、カウンセリングは機能しません。
不完全な形での介入は、結果として加害者に「カウンセリングを受けたからもう大丈夫」という免罪符を与えてしまい、かえって事態を悪化させるリスクさえあるのです。
だからこそ、私はご依頼主様との対話を大切にします。
職場と私が同じ視点に立ち、同じ歩幅で進んでいける。
そう確信できて初めて、この難しい一歩を踏み出すことができると考えています。
今回は、この「加害者カウンセリング」というデリケートな問題について、その本質と、再発防止のために職場が知っておくべきポイントを詳しく解説します。
「加害者にカウンセリングを受けさせたい」と考えている人事担当者や管理職の方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
ブログ執筆者 AIDERS代表 山﨑正徳(公認心理師・精神保健福祉士)のプロフィールは こちら
目次
加害者カウンセリングの理想の形
まず、カウンセリングが本来の力を発揮し、スムーズに進むケースを見てみましょう。
それは、「会社」と「本人」のニーズが最初から一致している場合です。

彼は我が社にとって欠かせない戦力ですが、今回の言動は看過できません。本人も深く反省しており、『自分の何がいけなかったのか、どう変わるべきか学びたい』と言っています。

私の発言であんなに部下を傷つけていたとは、知りませんでした……。もう二度と同じ過ちを繰り返したくないし、自分自身も変わりたいんです。でも、ついカッとなりやすい性格でして……。どうすればいいのか、ぜひ相談させてください。
この場合、会社、ハラスメント加害者、カウンセラーの三者のベクトルは同じ方向を向いています。
「変わりたい」という動機づけが本人にもあるため、カウンセリングは非常にスムーズに機能します。
カウンセリングがうまくいかないケース
一方で、私がご依頼を受けることが難しいケースがあります。
それは、会社と本人の考えていることがバラバラで、お互いに「自分以外の誰かにどうにかしてほしい」と願っている場合です。

正直なところ、職場としてはっきり注意はできていません。本人に言ってもすぐにムキになって反論するし、話が通じないんです。それくらい面倒で気難しい人なんですよ。でも、職場もこのまま放置もできないし……なんとか、先生の力でうまく導いて、彼を『まともな状態』にしてやってください。あと、もう『ハラスメント行為を繰り返すことはない』という専門家の判定が欲しいんです。ぜひ、よろしくお願いします。

会社に言われたから来ました。ハラスメントだなんて心外ですが、認めないと部下を付けられないと言うから……。とりあえず言われた通りにカウンセリングに来ました。僕は何回カウンセリングに通えばOKですかね?できれば、「私はもう十分に反省している」と会社に報告してほしいんです。
この場合、会社はカウンセリングに丸投げして「本人を変えてほしい」と願い、本人は「免罪符(お墨付き)がほしい」と考えています。
この板挟みの状態で、カウンセリングが機能することはありません。
会社が「藁をも掴む思い」でカウンセリングを頼るのは、「本人が全く困っていないから」ですよね。
しかし、その「本人を変えてもらいたい」「誰かに判定してほしい」という切実な願いこそが、落とし穴にもなり得ます。
「カウンセリングに送りこめば変わる」は幻想
ここで、少しだけ現実的なお話をさせてください。
多くの方が期待される「カウンセリングに送り込めば、本人が反省して言動が変わる」というのは、残念ながら少し現実とは異なります。
もちろん、最初は渋々来られた方でも、対話を通していくうちに「自分の言動に大きな問題があった」「このままではまずい」と、自分から内省を深めるケースはあります。
しかし、それはあくまで本人の内側に「変わりたい、学びたい」という気持ちが少しでもある場合に限られます。
もし、本人が「自分は悪くない」という正当化にすべてのエネルギーを注いでいる状態だとしたら、どうでしょうか。
そのような頑丈な心の壁を、カウンセラーが変えることは不可能なのです。
カウンセリングは、本人が自分と向き合うための場であり、会社の意を汲んで「加害者を改心させる」ということは本来の役割ではないのです。
それでもカウンセリングを受けさせることには意味がある。
「じゃあ、カウンセリングを受けさせることに意味はないのか?」と思われるかもしれませんが、答えは「ノー」です。
適切な条件下で行われるカウンセリングには、主に次の4つの大きな意味があります。
①知識としての教育
ハラスメントの知識、感情のコントロールや安全なコミュニケーションのあり方などを正しく学びます。これまでの自分のやり方とは違う「別の接し方」があることを知り、不適切な言動を知識の力で防ぐための土台を作ります。
②内省を深めるきっかけ
カウンセラーとの対話を通じて自分自身を客観視し、「自分の言動が、相手にどのような影響を与えていたのか」という自己理解を深めます。
③ハラスメント行為への「抑止力」
たとえ本人が納得していなくても、「会社から加害者として認定され、継続的にカウンセリングを命じられている」という事実そのものが、ハラスメント行為への抑止力として機能します。職場からしっかりと注視されているという緊張感が、安定した行動を保つための支えとなります。
④カウンセラーによる「見極め」
職場としても、本人にこれからどう接していくべきか、どこまで任せていいのかと迷われることも多いはずです。そこでカウンセラーが、ハラスメントを引き起こしている本質的な原因を見極めます。
それは本人の物事の捉え方といった人格的な課題なのか、あるいはコミュニケーション能力の不足なのか。もしくは、業務内容や職場環境にうまく適応できていないことがストレスを生んでいるのか。
こうした背景を専門的な視点で整理し、再発を防ぐために「職場としてどのような対応(配置転換など)を検討すべきか」について助言を行います。会社が今後の判断に迷った際の、一つの客観的な材料を提供する場でもあります。
求められるのは「会社の主体性」:3つの鉄則
カウンセリングを単なる形式で終わらせないためには、依頼主である会社側の「主体性」が不可欠です。
①会社のスタンスを明確にし、本人に伝える
本人の機嫌を伺いながら「ちょっと専門家と話してみたら?」と勧めるのはNGです。会社は本人に対し、明確に伝えるべきです。

会社が契約しているカウンセラーのカウンセリングを一定期間受けてもらいます。これは決定事項であり、業務命令です。もう二度とハラスメント行為を繰り返さないために、カウンセラーとよく相談をして行動を改善しください。
同時に、ハラスメント行為の再発防止に関する事項については、カウンセラーより会社へ報告を受けることを、本人の同意を得た上で明確にしておきます。
②ハラスメント行為の判定を曖昧にせずに本人に通告すること。
望ましくないのは、職場が判断をうやむやにしたままカウンセリングに放り込むことです。
カウンセラーが切り出した際に、本人が「え?私がパワハラですか?ただ会社に『カウンセリングを受けてみるように』と言われてきただけなんですが…」と、職場の判断すら把握していないケースは実は珍しくありません。だから、私は加害者カウンセリングの依頼を二つ返事でお受けすることはなく、事前に職場側とよく話し合います。
また、カウンセリング初回の冒頭に、人事担当者や上司に同席してもらうことを求めることもあります。そこで、「職場としてどの言動を問題と認定したか」「何を目的にカウンセリングを行うのか」等を「加害者、職場の担当者、カウンセラーの三者」で共有して初めて、スタートラインに立てるのです。
③判断の責任は「カウンセラー」ではなく「職場」にある。

「本人がもうハラスメントを繰り返すことがない」と判定をしてください。その判定をもって、本人を現場に戻すことにします。
このようなご依頼はお受けしておりません。
もちろん、職場としてそのつもりはないのかもしれません。しかし、実は無意識のうちに、判断や対応のすべてをカウンセリングに丸投げしてしまっていることも少なくないのです。これでは加害者の恨みの矛先がカウンセラーに向く可能性があるため、こちらは安全を感じて支援をすることができません。
あくまで、「カウンセラーの見解を材料のひとつとして、最終的に決めるのは職場である」というスタンスを貫いてください。そしてそのことを加害者本人にも明確に伝えてもらう必要があります。
「カウンセラーがOKと言ったら現場に戻すから」ではなく「カウンセラーの見解を参考に、最終的な判断は会社が行います」と伝えてください。
「行動変容」で評価する:唯一の客観的指標
ここで、もう一つの大切な事実をお伝えします。
カウンセラーが「この人はもう二度とハラスメントを繰り返さない」という保証をすることは、現実的に不可能です。
もちろん、カウンセリングを通じて「内省に深まりが見られた」「当初と比較して、自分の言動に問題があったことを認められるようになっている」といった変化を確認し、再発リスクが低減したと評価することは可能です。
しかし、人の内面は環境や状況によって揺れ動くものであり、100%の安全を断言できる人などどこにもいません。
「もう二度とハラスメントはしません!」 と本人が言ったとしても、それはあくまで本人の現時点での「意思」であって、「行動」そのものではないのです。
再発防止において何より評価すべきなのは、見えない「内面」が完全に変わったかどうかではなく、周囲から見える「行動」が実際に改善されたかどうか。
つまり、職場は本人の「意思」ではなく、日々積み重ねられる「行動」を観察し、評価していく必要があります。
- 不満や怒りを、感情的にならずに穏やかな口調で伝えることができるか。
- 部下に指摘、注意をする際には「人間性」ではなく「行動」について改善を求めているか。
- カウンセリングを継続するなど、再発を防ぐための行動を主体的に継続しているか。
- 周囲のメンバーが安全を感じて仕事をすることができるようになっているか。
「心を入れ替えてほしい」と願うお気持ちは、もっともです。
ですが、たとえ本人の内面が入れ替わっていなくても、上記のような「行動の事実」が三ヶ月、半年と積み重なっているのなら、それは改善している証拠です。
職場は、内面よりも「行動」で判断をしていく必要があるのです。
もし、カウンセリングを受けている間、明らかにリスクが抑えられているのであれば、それは継続的な関わりが効果を発揮しているということです。
職場によっては、当初の予定期間を延長し、定期的なフォローとしてカウンセリングを継続させるケースも少なくありません。また、会社としての期間を終えた後、本人が自らの意思で自費での継続を希望し、自分自身と向き合い続ける方もいます。
不安を残したまま無理に終了を急ぐのではなく、伴走を続けることで「ハラスメントが起きない状態」をまずは維持していく。
そうして再発のない期間を積み重ねていくことは、組織の安定を保つための一つの現実的な方法でもあります。
共に「本気の再発防止」に取り組むために
「魔法で心を変える」のを待つのではなく、「カウンセリングという枠組みを使って、正しい行動を継続させる」。
この現実的なアプローチが、ハラスメント対策における確かな選択肢だと、私は考えています。
ハラスメント加害者へのカウンセリングは、「職場」と「カウンセラー」が同じスタンスを共有し、しっかりと足並みを揃えることが必要不可欠です。
今、加害者へのカウンセリングをご検討でしたら、この記事でお伝えした私のスタンスをご理解いただいた上で、お問い合わせください。
「本気で組織を変えたい、再発を防ぎたい」という覚悟をお持ちの組織・担当者の方々と共に、私は全力で向き合っていきたいと考えています。

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