ハラスメント問題が深刻化する背景には、必ずと言っても良いほど「傍観者」の存在があります。
傍観者と聞くと、「ハラスメント被害を目撃している周囲の社員」というイメージが強いかもしれませんが、多いのが「経営者や管理職など、ハラスメント問題に対応すべき責任を負った人たちの傍観」です。
被害者は、職場から助けてもらえないことに絶望し、心の傷を深め、苦しみ、深刻なダメージを受けます。
「患者様に安全な医療を提供できる職場作りをしましょう!」
「社員が互いに協力し、お客様の幸福を追求する風土を目指す」
このような理念を掲げる職場ですらも、いざハラスメント問題が発生した時、「対応せずに放置してしまう」ということは珍しいことではありません。
では、なぜこのような問題が起きるのでしょうか?
このブログ記事では、ハラスメント問題が深刻化してしまう職場の特徴について詳しく解説していきます。
まず、カウンセリングで実際に寄せられた、二人のハラスメント被害者の話を紹介いたします。
※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら
目次
- 1 上司からパワハラを受けました…
- 2 職場がハラスメント問題に対応しない「傍観ハラスメント」とは。
- 3 原因①役職者の足並みが揃わないので対応できない。
- 4 原因②役職者が自分の役割を理解していない。
- 5 原因③役職者の共依存
- 6 原因④役職者の否認・防衛
- 7 原因⑤加害者がメンタルヘルス問題であることを理由に対応できない。
- 8 原因⑥「パワハラに該当するかどうか」にこだわる。
- 9 傍観ハラスメントは、被害者の怒りの矛先が会社に向かいやすい。
- 10 傍観ハラスメントは連鎖する。
- 11 蓄積された怒りが職場に向かい、突然モンスター社員が誕生する。
- 12 ハラスメントを野放しにする職場がたどる4つのプロセス
- 13 安全で働きやすい職場を取り戻す!「3つの機能」とは?
上司からパワハラを受けました…

この2か月、色々ありました。今はだいぶ落ち着いたんですけど、大変でした。4月に異動してきた主任が、かなりアクの強い人で。感情の起伏がすごく激しくて。機嫌がよい時はニコニコしていて、明るいんです。でも、機嫌が悪いとすごく顔に出るんですよ。怖いんです。
私の隣に座っているんですけど、イライラしているのがすぐに伝わってきて。すぐに被害に遭いました。ミスをしたら、「これ、どうなってるの?」と聞かれて、説明したんですけどかなり不機嫌で怖くて。すごく冷たく突き放されて、その日は私から声をかけてもちゃんと目を見て話をしてくれないんです。私の他にも、新人の男性がけっこうきついことを言われていました。とにかく不機嫌で言い方がきついんです。
ちょうど課長とのワンオンワンがあったので、私はそのことを話しました。あまりにも怖くて苦しいと伝えました。そしたら課長が他のメンバーにヒアリングしてくれて、問題だと感じたらしくて、支店長と課長の二人で、主任に注意してくれたようです。
その主任は、それからだいぶ大人しくなりました。課長の話だと、前の支店では全然注意されることがなかったみたいなんです。だからあまり自覚がなかったみたいなんですよ。今はだいぶ落ち着いて仕事できています。上司がすぐに対応してくれたので、本当に嬉しかったです。

適応障害で先月から休職しています。休職の原因は上司のパワハラです。その上司は、役員が半年前に外部から連れてきたやり手の女性です。とても言い方がきつい人で、毎回傷つくことを言われます。みんなが見ているチャットでも詰められることがあって、本当に辛くて辛くて。
仕事に行こうと思うだけで動悸が止まりませんでした。思いついたことをなんでもこっちに投げてきて、休日・時間外だろうがお構いなしにチャットが飛んでくるんですよ。返信が遅いとそのことも咎められるので、仕方なく休日もチャットを見て、対応が必要なら返信をしています。
妻からは「休みにそんなことするのおかしいよ」「上の人に相談しなよ」と言われてかなり心配されました。役員に相談してみたんですけど、全くダメでした。「まあ、一生懸命な人だから」と言われて、それで終わりです。人事も話は聞いてくれましたが、何もしてくれませんでした。
僕が休職して、僕の業務を引き継いだ人が同じように具合が悪くなっているみたいです。悲しいですよ。社長も役員も人事も、みんな見て見ぬふりです。
さて、この二人の話を聞いて、あなたはどう感じますか?
二人とも、上司からハラスメントとも取れるような暴力的なコミュニケーションの被害に遭っています。
ただし、Aさんが負ったダメージは一時的なもので、今は安全に仕事ができているようです。
一方でBさんは、休職に追い込まれています。
この違いは一体なんでしょうか。
これはもう、私から説明するまでもありませんよね。
単純明快で、「ハラスメントが発生した時に、職場が速やかに対応をしたかどうか」という、これだけの話です。
ハラスメントの深刻化を防ぐ方法は本当に簡単で、「発覚した時点で職場が適切な行動を取る」だけで良いのです。
家族で置き換えれば、お兄ちゃんが弟をいじめていたら、親がすぐにお兄ちゃんを叱りますよね。
職場でこれができるかどうかというだけの話になります。
職場がハラスメント問題に対応しない「傍観ハラスメント」とは。
このごく当たり前のことができず、ハラスメントを野放しにしてしまう職場が多く、被害は深刻化します。

あの課長の下につく人はけっこう具合が悪くなってるから、本当に気をつけてね。確か2年前に休職した人もいたんだよね。だから、無理しないで、何かあったらすぐに相談してね。
あなたの職場でもこんな風に言われている管理職はいませんか?
このような人は往々にして「クラッシャー」「パワハラ上司」などと呼ばれて個人の問題とされがちですが、よく考えてみてください。
その管理職が行動を改める必要がない理由はなぜですか?
どうしてそのようなマネジメントを継続することができるのでしょうか?
こう考えると問題は明白ですよね。
被害者が出ていることを知っていながら放置している職場があってこそ、その人はハラスメントを継続することができるのです。
だから、私から見ると「クラッシャー」はその人個人ではなく、職場そのものなのです。
このように、ハラスメントが発生した時に対応する責任を負う立場の人が、役割を果たさずに放置することを、私は「傍観ハラスメント」と呼んでいます。
傍観ハラスメントは、被害者を孤立させ、行為者のハラスメントをさらに助長させる二次加害です。
私はこれまでカウンセリングで多くのハラスメント被害者を見てきましたが、メンタルヘルス問題を発症したり、休職に追い込まれたりするほどの被害者が出る職場には、往々にして傍観ハラスメントが存在しています。
ここから、傍観ハラスメントが起きる背景には様々な組織の問題がありますが、主な原因をいくつか挙げていきます。
原因①役職者の足並みが揃わないので対応できない。

私は一度だけ、Tさんの問題を注意したことがあるんですよ。「そんな言い方をしたら相手は傷つくよ」って。Tさんは「そんなことありません!」といって私にすごく怒って反発しました。それで、手に負えないので課長に相談したんですけど、課長は対応したくないみたいで「まあ、うまくやってよ」で終わりです。それどころか、私への不満を訴えるTさんを慰めるような対応をしたんですよ。
それで、もう私はTさんにとってはただの悪者ですよ。私が注意したって課長がそんなだからもうバカらしくて、怖いし、私も何も言えません。
ハラスメント問題は、当然ですが役職者や人事担当者の足並みが揃わないと対応できません。
社員の問題行動を明確に指摘して改善を求めるわけですから、相手から強く反発される可能性もあり、エネルギーがいる作業ですよね。
だからこそ、しっかりとネットワークを組んで足並みを揃えて対応をする必要があります。
係長、課長、部長、そして人事担当者など、それぞれが自分の職務に伴う役割と責任を果たさなければなりません。
ただ、この足並みが揃わずに一人の役職者が孤立してしまうことは珍しくありません。
係長が注意したのに、課長が当事者を守ってしまい、結局係長が嫌われて終わる。
このようなことが繰り返し起きれば、初めは対応しようとしていた係長も途方に暮れて何もできなくなります。
こうして、ハラスメント問題が傍観されます。
原因②役職者が自分の役割を理解していない。

どの職場でも人間関係のトラブルくらいありますよ。そこは大人同士、うまくやってほしいですよね。工場長の私が入ってどうたら言うような話ではありませんよ。当事者同士、よく話し合って解決してほしいですね。大人なんですから。
ハラスメントを防ぐための職場環境づくりにおいて、管理職はとても重要な役割を負っています。
日頃から部下とのコミュニケーションを円滑にして適宜相談に乗り、人間関係のトラブルが発生した際には迅速に対応していかなければなりません。
ただ、管理職が自分の役割を理解しておらず、人間関係のトラブルを「大人同士、よく話し合って解決してよ」で傍観していれば、問題はどんどん深刻になっていきます。
サッカーで例えれば、反則行為を主審が笛を吹かずにスルーするようなものです。
笛を吹いて試合を止めて、深刻さに応じてカードを出す役割を担う人が、それを理解していないのですから試合は無法地帯になりますよね。
やられた方がやり返せば喧嘩は増えます。
大きな声で主張する強い人の意見が通りやすくなり、弱いものいじめも起きるでしょう。
感情的な言動が蔓延していき、モラルはどんどん低下していきます。
そのような環境を生き抜いて管理職になった人は、ハラスメントに対する意識が希薄になりやすくなります。
「職場に守られた経験がない人」は、「自分が部下を守る立場である」ということ自体、理解も納得もできないのです。
原因③役職者の共依存

みんなに嫌われたくない!必要とされたい!
自分の存在意義を見出すために、過剰に相手の世話を焼くなどして、相手に必要とされる関係を作り出す関係性を「共依存の関係」と言います。
管理職が、「管理職として部下から必要とされたい」「嫌われたくない」「自分が上司で良かったと思ってほしい」という強い思いで部下と関わることになります。
部下思いの優しい上司であることが多いのですが、「嫌われたくない」という思いが強すぎると、部下の問題行動を指摘することができなくなります。
ハラスメント被害者の相談に親身に乗る一方で、加害者にも優しく接してしまい然るべき対応ができず、結果としてハラスメント行為を野放しにしてしまうことになります。
原因④役職者の否認・防衛

どの職場に行っても言い方がきつい人くらいいますよ。それくらい普通ですから。彼は確かに言い方がきついですけど、良いところもたくさんあるんですよ。みんなそこをもっと見て、うまくやってくれないと。私から見ると、みんなやや被害的なんですよね。
部下からハラスメント被害の相談を受けたら、当然ですが管理職はその対応を迫られます。
必要に応じて調査し、ハラスメントのリスクの高い言動が認められれば注意して改善を求めなければなりません。
部下の問題行動を指摘することで関係が悪化する可能性もありますから、管理職にとっては決して穏やかではない仕事です。
これを面倒に感じる管理職は、部下からの訴えを退けて認めないという行動を取ることがあります。
問題を認めなければ対応しなくて済みますよね。
だから、部下の受け止め方の問題にしたり、当事者同士の人間関係の問題とするなど、あれやこれやと理由をつけていつまでも対応せず、被害を受ける社員は無力感や不全感に苛まれます。
原因⑤加害者がメンタルヘルス問題であることを理由に対応できない。

彼の行為が問題なのはわかります。ただ、彼は2年前からうつ病で通院しているらしいんですよ。だから、ハラスメントだと注意してしまって、それでうつが悪化してしまうことはないですかね?そう考えると、あまり刺激をしない方が良いように思うんですよ。
加害者がうつ病などのメンタルヘルス問題を抱えているケースでは、職場が問題に感じていながらも対応に二の足を踏んでしまうことが多々あります。
気持ちはわからなくはないですが、ハラスメント行為を野放しにして被害者を増やすことになれば本末転倒ですよね。
ハラスメント行為の背景にメンタルヘルス問題が絡んでいることは珍しいことではありませんから、「刺激しないこと」よりも「きちんと声をかけて状態を確認すること」が大切です。
感情のコントロールがきかないほどにメンタルヘルス問題が悪化しているようであれば、産業医面談を受けさせて就労が可能な状態なのかなどを適宜判断して対応していく必要があります。
また、ハラスメント行為を指摘したことでうつが悪化してしまった場合、職場は「余計なことを言わなければよかった」と捉えるべきではありません。
職場として必要な指摘をしたわけですから、「通常の指導にも耐えられないくらいに状態が悪い」と捉え、同じく産業医面談を受けさせる、または本人の同意を得た上で主治医と情報共有するなどして、職場としての対応を検討しましょう。
原因⑥「パワハラに該当するかどうか」にこだわる。

確かにあの言い方はないよね。でも、あれってパワハラとまでは言わないんじゃないかな…。明確にパワハラだと言えないものを注意できないよね。
加害者の行為がパワハラに該当するかどうかにこだわってしまい、該当しない言動には対応せずに傍観してしまうというケースも多々あります。
パワハラに該当するかにこだわるということは、見方を変えれば「パワハラにさえならなければ何をしてもよい」ということになりますよね。これでは職場の秩序が崩壊しかねません。
大切なのは、「パワハラに該当するかどうか」ではなく「その言動が適切かどうか、自分たちの職場に必要かどうか」です。
例えば、新人のミスを毎回高圧的に指摘する人がいた場合、そのような指摘の仕方が職場にとって「適切なのか、必要なのか」ということを意識しましょう。
「患者様に安全な医療を提供できる職場作り」という理念を掲げている病院であれば、その目的を達成するためにどんなコミュニケーションがベストなのか、ということを考えて動く必要があります。

ハラスメントとまでは言えなくても、あの言い方は職場の風紀を乱すものなので、次からは慎んでください。あのような場面では感情的にならないで、穏やかな口調で伝えてください。
このようなイメージです。
「パワハラに該当するかどうか」だけでしか動けない職場は、「主体性の低い職場」に見えます。
顧客、従業員、従業員の家族、取引先、株主、地域社会等に対して、自分たちはどうありたいのか。どうあるべきなのか。
それを考えて行動していきましょう。
傍観ハラスメントは、被害者の怒りの矛先が会社に向かいやすい。
パワハラ被害を上司に訴えても対応をしてもらえない場合、多くの労働者が不全感に打ちひしがれます。
例えば、ハラスメントが原因で休職をしたのに、会社からは謝罪をされることもなく、自身の性格や心の問題としてしか扱われないことはよくあります。
「復職する時には再発防止策をしっかりまとめてきてください」などと言われ、完全に本人の問題にされてしまうわけです。
会社のこのような対応がどうして成立してしまうのかと言うと、それは被害者が「会社と揉めないように我慢をしているから」または「自責感が強いから」に他なりません。

自分が休職するまで追い込まれたことには今でも納得がいきません。社長も役員も人事も、僕がだいぶやられているのを知ってましたから。相談しても話を聞くだけで何もしてくれませんでした。考えると腹が立ちますし、言いたいことはあります。でも、社長は「復職する時は○○さんの下にはつけないから」と言ってくれていますし。ここで何か言って揉めるよりは、復帰して異動させてもらって、早く元の生活に戻りたいなと思っています。

本音を言えば、課長に助けてほしかったです。先輩にもっと注意してほしかったんですけど、でも私にも悪いところがたくさんありましたし、私がもっと動ければこんなことにはならなかったと思うんですよ。だから仕方ないんですよね。
このように被害者が我慢をしてくれるからこそ、職場も対応する必要がなく、傍観ができるのです。
私は、「ハラスメント加害者は人や環境に依存する」と常に言っていますが、傍観ハラスメントも構造は同じです。
ハラスメント問題に対応したくない職場が、傍観のスタンスをとっても我慢してくれる被害者に依存しまい、結果として傍観行為が助長されます。
直接的なハラスメント行為を行う加害者に傷つけられ(一次被害)、傍観して対応をしてくれない職場にさらに傷口を広げられ(二次被害)、被害者は相当に深刻なダメージを負うことになります。
職場としては、このような問題が起きても、被害者が我慢をしてくれてなんとなく穏便に済んでいけば良いのかもしれませんが、そのようなケースばかりではありません。
はじめは自責感が強く職場になにも言えなかった人も、時間とともに気持ちが変わることもあります。

もう休職して一年か…。私をいじめた先輩は普通に働いていて、なんで私は休まないといけないの?そもそも課長は見て見ぬふりだったし、やっぱり許せない!
このように、被害者の怒りの矛先が加害者だけでなく職場に向かいやすくなります。
職場への恨みが募れば、労災申請などの行動につながるリスクも十分にありえるでしょう。
傍観ハラスメントは連鎖する。
ハラスメント行為が野放しになった職場では、当然ですが被害者が増えていきます。
ハラスメント行為によって受けた傷はもちろんのこと、職場に守ってもらえなかった怒りや悲しみも蓄積していきます。
「怒りは強いものから弱いものに向かいやすい」ため、負の連鎖として新たなハラスメントに発展しやすくなります。

ちょっと強く言われたくらいで、ハラスメント??甘いんじゃないの?私たちだって、みんな耐えて乗りこえてここまできたんだよ。仕事していればこれくらい普通だからね。
癒えていない被害者の傷が怒りとなり、自らが加害者になることもあれば、自分がされた時と同じように傍観者になることもあるでしょう。
こうして、傍観ハラスメントが職場に根づいていきます。
蓄積された怒りが職場に向かい、突然モンスター社員が誕生する。

「傍観ハラスメントが蔓延した職場では被害者が増えていく」という話をしましたが、被害者が増えるということはそれに伴い加害者も増えやすくなります。
なぜなら、「暴力の加害と被害は逆転する」からです。
例えば、被害に耐え続けた人が、職場で一定の経験を積み、それなりのパワーを得たタイミングで急変し、瞬く間にモンスター化してしまうこともあり得ます。
まさに「積年の恨みを果たす」がごとく、職場に反撃を開始するのです。
普段モンスター社員対応の相談を受けていると、「彼はもともとはとても真面目だったんですよ」といった話はよく聞きます。
真面目で一生懸命に働いてきた、そして被害にも耐えてきたからこそ、それだけ傷が深く、報われない思いが怒りや恨みになりやすいのです。
ハラスメントを野放しにする職場がたどる4つのプロセス
ここまで説明してきたことのまとめとして、ハラスメントを傍観して野放しにする職場でなにが起きるのかを解説いたします。
- LEVEL1:ハラスメント行為者に対する被害者の不満
- 被害を受ける社員の間で、ハラスメント行為者に対する不満が募る段階です。管理職は社員から被害の訴えを聞き、不満に耳を傾けることが増えてきます。この段階では、管理職は社員と比較的良い関係を築くことができています。
- LEVEL2:しかるべき対応をしない管理職への不満や不信
- 被害が増え、なおかつ長期化してくると、社員の不満はハラスメント行為者だけでなく、対応をしない管理職にも向けられるようになります。
「いつも私の話を聞くだけで、結局なにもしない」
「一番の問題は、管理職がなにも対応しないことだ。だから私たちが辛い思いをしている」
管理職がこのような抗議を直接受けることは少なく、表面的には被害を受ける社員と良い関係を築くことができますが、管理職への不満や不信は日々募り、徐々に職場の雰囲気が悪くなっていきます。
- LEVEL3:新たな問題行動を起こす社員の発生と管理職の否認
- 職場への不満を募らせる社員が増えていくことで、士気やモラルは低下していきます。
「私がパワハラを受けているのに職場はなにも助けてくれないんだから、だったら私だって好きにしよう」
「うちの職場は、どうせ大きな声で主張したもの勝ちだから」
このように、不満や怒りを募らせた社員や、好きにやっても何も注意を受けないことを学んだ社員が、新たにモンスター化していくことになります。こうして問題を起こす社員が増えていくと、管理職も問題を直視できなくなります。部下からパワハラ被害を訴えられても、パワハラだと認めると対応をしなければいけなくなりますから、問題を認めたくない心理が強く働きます。
「仕事をしていればこれくらい普通だよ」
「あの人も悪気があってやっているわけではないからね」
このように、問題を曖昧にする対応が定着し、ハラスメントなどのモラルの低い行動が職場に蔓延していきます。
- LEVEL4:パワハラやいじめ、健康問題、退職、人手不足の慢性化
- パワハラやいじめが慢性化した劣悪な労働環境が日常になり、それに伴い、うつ病などのメンタルヘルス問題で休職したり、疲弊して退職する人が増え、人手不足の状態が慢性化します。ここまでくると、職場は問題に対する否認がより強固になり、「人手不足の原因は退職する社員にある」として済ませるようになります。
「最近の若い人は心が弱い」「次はもっといい人がくればいいのに」
変わるのは職場ではなく社員だ、という意識が強くなり、一方で現場は職場への怒りや無力感でいっぱいになりますから、現場と経営陣・役職者の間での溝がより深くなります。
安全で働きやすい職場を取り戻す!「3つの機能」とは?
ここまで読んでいただき、いかがでしょうか。
「うちの職場のことをそのまま言い当てられている!!」と驚いた方もいらっしゃるかと思いますが、この記事で説明したような問題が起きている職場は珍しいわけではなく、私からするとよくあることです。
そして、「わかってはいるけれど、問題から目を背けてしまうこと」もまた、よくあることです。
目の前で起きているハラスメント問題を「傍観」という形で否認し、そして職場で傍観ハラスメントが蔓延している事実からも目を背けてしまう。
傍観ハラスメントは、まさに「否認の病」だと私は思います。
勇気のいることだと思いますが、まずは「経営者や管理職が問題を認めることができるかどうか」、これがファーストステップになります。
そして、職場の機能を正常化し傍観ハラスメントを撲滅するための取り組みとして、以下の「3つの機能」を参考に、職場環境を点検してみてください。
役割
- 職場の使命や役割を理解していること。
- 自分自身の役割、職務を理解していること。
- 組織を構成するメンバーそれぞれの役割を理解して共有できていること。
- それぞれが役割を果たし、存在意義を感じることができること。
- 役割にもとづく自分の考え、意見を持つことができること。
尊重
- お互いの人間性や役割を尊重できていること。
- 感情的になったり、ハラスメント行為をしたりして相手の安全を脅かさないこと。
- 異なる意見や考えを排除せず、尊重し合うこと。
- 組織のルールや秩序を守ること。
- 役割を押し付け合ったり、背負いすぎたりしないこと。
コミュニケーション
- 相手の話を聴くことができる。
- 自分の考えや気持ちを相手に伝えることができる。
- お互いに関心を持ち、声をかけることができる。孤立させない。
- 困ったこと、悩みごとは抱え込まずに相談することができる。
- 相手の安全を奪わずに不満や怒りを伝えることができる。
ご自分の職場や家族、友人関係などを振り返ってみてください。
あなたにとって心地よいと感じる関係は、この3つの機能がそれなりに満たされているのではないでしょうか。
存在意義を感じることができ、お互いに尊重しあえて、話し合える関係。
こういう職場やチームに所属できていると、毎日が生き生きしてきますよね。
一方で、ハラスメントが横行していたり、管理職が役割を果たさなかったりするなどして3つの機能に支障が生じると、組織に様々な問題が起きるようになります。
そこで働く人たちは存在意義を失い、惨めさを感じることが増え、目に見えてコミュニケーションが減っていきます。
まさに「機能不全の職場」に陥るのです。
傍観ハラスメントは、職場の機能不全を体現する現象そのものであると私は思います。
あなたの職場はいかがでしょうか。
もしあなたが役職者であるなら、3つの機能を切り口に職場を点検し、ご自分にできるところからだけでも、改善に向けた取り組みを進めてみてください。
どれだけ対策を講じても、問題が起きる時は起きてしまうものです。
大切なのが、職場も家族も「問題が起きた時にひざを突き合わせて話し合える関係を日頃から築けているかどうか」だと思います。
繰り返しになりますが、ぜひご自分にできるところから始めてみてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。



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