
上司とのコミュニケーションがうまくいかなくて、本当に毎日苦しいんです。
仕事に行こうとすると動悸がして、毎日落ち込んでいます。
上司の言っていることが本当にわからなくて、もう自分がバカなんだか、上司がおかしいんだか、分からなくなっちゃったんです……。
昨日もそうでした。進捗の報告に行ったら、急に上司のスイッチが入っちゃって。
私が一言『スケジュールが少し厳しくて』って言っただけなのに、そこから15分間、ノンストップです。『君の言う「厳しい」の定義は何? 定量的な根拠はあるの? そもそもリソース配分の最適化という観点から逆算すれば、その遅延は論理的にあり得ないよね? 構造的な問題なの? それとも君のコンピテンシーの問題?』みたいな。
カウンセリングで説明しようと思って、昨日すぐにメモしたのですが、覚えている一部だけでもこんな感じですよ。意味わかりますか?
もう、途中から何言ってるか全然わからないんです。 聞いたこともない横文字や、もっともらしい理屈をズバズバ並べられて。
しかもものすごく真剣で怖いんですよ。もっと普通に話してくれれば、私も『わからない』と言えるんですが…。頭の中が真っ白になって、心臓がバクバクして、ただ『すみません』って言葉しか出てこなくなっちゃう。
でも、私が黙れば黙るほど、上司はどんどん自信満々になっていくんです。『やっと理解できたか』みたいな顔をして。
最後には『論理的に詰めれば答えは出るんだよ。感情でなくてね。また話そうね』って。全然違うんです。納得なんてしてない。
ただ、あの言葉の連射が怖くて、これ以上何か言ったら何をされるか分からなくて、早く終わってほしくて、フリーズしてただけなんです。
あんなに自信満々で、討論のモードのように言われると、会話にならないですよね。
私の理解が悪いだけなのかもと思います。でも、本当に何を言っているか分からないんです。私は、ただ普通に相談したかっただけなのに……。

最近、職場の特定の先輩と話すのが怖くてたまらないんです。
その先輩、普段は普通なんです。でも、ちょっとした意見交換のつもりで話していても、意見が食い違ったり、先輩の得意分野の話になったりすると、突如として『スイッチ』が入ってしまうんです。
私はただ、『これってどうなんですかね?』くらいの軽い相談をしたいだけなのに、一気に『論戦モード』に切り替わって、難しい専門用語や、もっともらしい理屈を、ツラツラと話し続けるんです。
でも、私からすると内容がまったく伴っていないというか…。それなりのことを偉そうに語るんですけど、意味不明だし稚拙に感じることもあって。
だからといってこちらが反対意見を言うと、それこそ論戦のバトル的なモードになるんですね。怖いし面倒だし、もう言い返せなくて。
上司もその先輩には苦戦していて、『あれはロジハラだよな』なんて言っています。でも、ロジハラ(ロジカル・ハラスメント)というのは正論を武器にするやつですよね。先輩の場合は正論ではないですよ。正論ぽく聞こえるけど、やりとりを思い返すと大したこと言ってないし、ツッコミどころはけっこうあります。
ただただ、向こうの圧倒的な熱量と、もっともらしい言葉に押し流されて、「あー、また始まったよー」と途方にくれます。「どう思う?」と真顔で聞かれると、頭の中が真っ白ですよ。私が何を言おうと、その後の展開が見えますからね。
上司も頼りにならないし、本当にどうしたらよいのか、途方に暮れていますよ。
ここ数年、カウンセリングの場面でこのようなご相談を受けることが、目に見えて増えてきました。
なぜ、今これほどまでにこうした悩みが増えているのでしょうか。
SNSや動画サイトを開けば、誰かが誰かを言い負かす「論戦」の様子が当たり前のように流れ、世の中には「論破」という言葉が溢れています。
こうした社会背景が、コミュニケーションの形に少なからず影響しているのかもしれません。
この現象の非常に厄介なところは、被害を受けている方が「とても困っている」のに、それが明確なハラスメントだと言い切りにくい点にあります。
相手は、ただ「一生懸命」に仕事をしているだけのように見える。悪意があるわけではなく、むしろ「良かれ」と思っての行動にも見える。
だからこそ、周囲の人は声を上げられません。
でも、その意味不明なエネルギーに晒されている側は、言葉にできないほど疲れ果てている。
そんな「リスクに気づかれないリスク」の中で、心が削られている人がたくさんいるのです。
ここまでの私の話を聴くと、「確かに、あの疲労感は異常だ。でも、会社の問題として取り上げるのは難しいのかな?」と思いますよね。
まさにそのとおりで、加害側に悪気がない場合も多いため、対応は一筋縄ではいきません。
だからといって、放置しておけば、組織全体に悪影響を及ぼし、メンタルヘルスを損なう人が続出してしまいます。
そこで私は、この現象に名前をつけて説明したいと考えました。
今まさに、目の前で繰り広げられる「言葉による制圧」に苦しんでいるあなたへ。
そして、明らかに「あの人の言動が原因だ」と分かっていながら、どう指導すべきか頭を抱えている管理職の方へ。
この「ディベート・ハラスメント」という得体の知れない重圧から脱却し、健やかな対話を取り戻すための方法を、これから解説していきます。
※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら
目次
ディベート・ハラスメントに見られる4つの特徴
「ディベート・ハラスメント(ディベハラ)」とは、ひと言で言えば、「安全なはずの会話を、突如として終わりのない討論モードに引きずり込み、やり取りを不能にしてしまう行為」のことです。
ディベハラにみられるいくつかの特徴を紹介します。
①日常会話が突如として戦場に変わる。
こちらはただの意見交換や相談のつもりで話しているのに、相手の中でスイッチが入ると、一瞬にして逃げ場のない論戦の場に引きずり込まれてしまいます。
例えば小学校のドッヂボールで、執拗に勝ちにこだわり、仲間にムキになって怒ってしまうような友達はいませんでしたか?みんな楽しくドッヂボールをやりたいのに、その子がいるとどうも楽しめない。球技大会ならまだしも、休み時間のドッヂボールなのに。楽しくやりたいだけなのに。これに近いことが職場で起きます。
②キャッチボールではなく、一方的なノックである。
自分の論理を披露することに酔いしれてしまうこともあれば、自分の主張を認めさせることに必死になっていることもありますが、どちらにせよ共通しているのは「安全なコミュニケーションが成立しない」ということです。
相手は自分の思考を吐き出すことに夢中で、こちらが受け取れる状態かどうかに目が向かず、ひたすら言葉を打ち込み続けてしまいます。
③独自の理屈や言葉の勢いで、相手の思考を停止させてしまう。
本人はあくまで正しいことを伝えようと一生懸命なのですが、受け取る側にとっては情報量があまりに過多で、また中身を咀嚼する前に次から次へと理屈が重なり、相手の熱量の強さにも気圧され、結果として思考が止まってしまうということがよくあります。
被害を受ける人は、「自分の理解力が悪いのではないか」と自責的になることも珍しくありません。
④自分の「正しさ」と「貢献」への強い思い込み
本人は「自分は正しいことをしている」「チームのために役に立っている」という強い思い込みのもとに動いていることが少なくありません。 相手を追い詰めようという明確な悪意よりも、「わからせてあげなければ」「自分の正論こそが解決策だ」という自己完結した正当性が勝ってしまっている状態です。
そのため、周囲も「あの人は熱心だから」「間違ったことは言っていないから」と見過ごしてしまい、結果としてその熱意が、相手の心を削り続ける暴走に繋がってしまうのです。
どのハラスメントにも共通することですが、そこには常に「指摘しづらい力関係」が存在します。
上司や先輩といった立場からの言葉であれば、たとえそれが「一方的なノック」であっても、私たちは正面から受け止めざるを得ません。
加えて、このディベハラにおいて厄介なのは、たとえ相手が部下であったとしても、その圧倒的な「知識」や「正論(に見えるもの)」が事実上のパワーとして機能してしまう点です。
この立場や知識を背景にした逃げ場のなさが、被害者を「やり取り不能」な絶望感へと追い込んでいくのです。
ディベート・ハラスメントの背景に見られやすい心理
背景にある心理はケースバイケースですが、例えばこんな傾向が見られることもあります。
- プロセス依存
知識を並べて相手を論破し、自分の意見を通すという「一連の流れ」そのものに依存してしまい、無意識に脳内の報酬(快感)を求めてしまっているケース。 - 寂しさと承認欲求の連鎖
心の奥にある満たされなさを、仕事を通じた「確かな手応え」で埋めようとして、周囲に知識を披露し自分の正しさを証明することで、自らの寂しさを癒そうとするケース。
いずれも、本人に明確な悪意があるわけではなく、一生懸命さが不器用な形で暴走してしまっている事例が多い印象を受けます。
「議論」の形を借りているからこそ、注意しにくい二つの理由
- 「ハラスメント」とは判断しづらい
暴力や暴言といった分かりやすいパワハラとは違い、表面的には「熱い議論」や「熱心な教育」に見えてしまいます。そのため、周囲が違和感を抱いても、「自分の受け取り方の問題かな?」「仕事に厳しいだけかも」と自問自答してしまい、踏み込む勇気を削がれてしまうのです。
この「仕事としての正当性」という隠れ蓑が、問題を潜伏させてしまいます。
- 「面倒くさい」という心理的な壁
これが一番の本音かもしれません。ロジハラやディベハラ気質の人に注意をすれば、間違いなく「なぜそれがハラスメントなんですか?」「根拠は何ですか?」と、また新たな議論をふっかけられることが目に見えています。
その不毛なやり取りにエネルギーを割くくらいなら、自分が我慢したり、被害者に「うまく受け流して」と伝えたりする方が楽だと感じてしまう。結果として加害者の暴走を許す土壌になってしまっているのです。
具体的な対応のポイント
ここからは、職場としての具体的な対応方法を解説していきます。
まず、先にも述べた通り、こうしたケースは明確なハラスメントとは分かりづらいことが多いため、「ハラスメントかどうか」にこだわらないことが大切です。
ハラスメントであろうがなかろうが、職場が注目すべきは「業務を円滑に遂行する上で支障になっているパフォーマンスの問題」です。
業務上の支障となっている事実の例
- 10分程度で済むはずの確認や打ち合わせ事項に、毎回30分以上費やし、他の業務を圧迫している。
- 相談すべき重要な案件があっても、周囲が「あの人に捕まると長い」「何を言われるか分からない」とその人を避けており、チームとしての情報共有が停滞している。
- 相手の追求をかわすことが優先され、周囲のメンバーが自ら提案することをやめ、思考停止や指示待ちの状態に陥っている。
- 過度な議論によって疲弊したメンバーが離職を考え始めたり、実際にメンタル不調による欠勤が発生したりしている。
このように、客観的事実を挙げて整理しましょう。
「してほしくないこと」ではなく「してほしいこと」を具体的に伝える。
本人に生じているパフォーマンスの問題を伝えた上で、具体的な改善を求めましょう。
ただ、「こういうことはやめてください」という指摘だけでは、相手はどうしたらいいのか分かりませんし、その後の行動が本当に変わったのかを評価することもできません。
大切なのは、職場が本人に望む行動改善の内容、つまり「してほしいこと」を具体的に伝えることです。
以下に、改善を求める際のワードをいくつか挙げます。現場の状況に応じて使い分けてみてください。

- 相手が理解できるスピードで、相手が意見を言えるスピードで話をしてください。
- 専門用語を羅列せず、誰にでもわかる言葉で説明するようにしてください。
- 相手が理解できているかを都度確認し、「なんでわからないの?」ではなく、「自分の説明の仕方に問題があるのかも」という意識をもつようにしてください。
- 一度に出す情報の量は少なめにして、「伝えよう」ではなく「共通意識を持とう」を意識してください。
- 自分が話す時間と同じくらい、相手の話す時間を作ることを意識してください。
- 「どっちが正しいか」を決めるのではなく、「これからどうするか」を考えてください。白黒つけるのではなく、すり合わせです。
- 相手が黙り込んだら、要注意のサインです。一度話を止めてください。
- 「わからなかったらすぐに伝えて」「私が暴走したらすぐに言ってもらえる?自分では気づけなくて…」と相手に言うようにしましょう。
- 大事な話し合いは一対一で行わず、当面は他の管理職に入ってもらうようにしてください。
このようなイメージで伝えます。ここからの進め方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
相手の土俵に乗らないためのポイント
このようなケースで改善を求める面談がうまくいかないのは、その面談中に相手の討論モードが発動し、そこに巻き込まれてしまうことです。

私が正しいことを言っているから、言い返せなくて『威圧』って言っているだけじゃないですか?それって仕事の議論を感情論ですり替えてますよね。僕が間違ったことを言ったなら、どこがどう違うのか論理的に説明してくださいよ。説明できないのに『怖い』とか言われるのは、それこそ僕への攻撃じゃないですか?
これが「ディベート・ハラスメント」の特徴です。
一見、正論を吐いているようですが、そこには全く納得感がありません。
ただ、それらしい言葉を息つく暇もなく一気にまくしたてられるため、聞いている側は「何かおかしい」とは分かっていても、頭が追いつかずにフリーズしてしまうことがあります。
この「考える時間を与えないほどの言葉の勢い」こそが、相手を思考停止に追い込み、いつの間にか議論の主導権を奪われ、巻き込まれてしまう原因なのです。
- 面談は「2対1」がお勧め
一対一で向き合うと、相手の言葉の勢いに圧倒され、どうしても冷静さを失ってしまいがちです。だからこそ、こうした面談は必ず二人以上で対応することをおすすめします。
複数人で臨む最大のメリットは、相手の理屈にやり込められてしまうのを防ぎ、売り言葉に買い言葉で不毛な喧嘩に発展するリスクを抑えられる点にあります。自分一人ではないという安心感があれば、相手の言葉を落ち着いて受け止める心の余裕も生まれます。
また、本人の言い分に無理があったり、話し方が威圧的だったりする場合、その場で「二人から」同時に指摘を受ける方が、本人も自分の振る舞いを客観的に捉えやすく、納得感に繋がりやすくなります。
※当然ながら、こちらが二人となると相手にとってはプレッシャーを感じる場面です。相手の人間性を尊重し、糾弾するようなコミュニケーションにならないように十分注意しましょう。

- 「今のその状態」をフィードバックする。

うーん…。気を悪くしたら申し訳ないんだけど、本当に何を言っているのかがわからないし、会話ができないんだよ。だから、これだと若い子は反論できなくてきっと怖いと思う。
白黒つけるコミュニケーションがしたいんじゃなくてさ、今起きている問題を一緒に考えたいんだよ。そうやって勢いよく言われると、それはコミュニケーションにならないよ。
今まさに起きているこのやりとりを会社としては問題に思っているんです。落ち着いて話しましょうよ。
向こうがいつものように理屈で反論してきても、その内容に反応、反論する必要はありません。
大切なのは、今まさに目の前で起きている「不全なコミュニケーション」をその場で指摘することです。
こちらが感じていること、そして相手を心配に思う気持ちなどを伝えましょう。

あなたのことがとても心配だし、一緒に働きたいから伝えているんだよ。とても頑張っているのはわかっているから、ちゃんと話そうよ。
私の経験では、ディベハラが癖になっている人には、このようなストレートなメッセージが入りやすい印象があります(もちろん人にもよりますが)。
「寂しさ」を抱えている人が多いので、反論ではなく「味方であること」を伝えると心が動きやすいです。
そのためにも、こちらが誠実であることが何より大切になります。
法人向けカウンセリングのご案内
自分のコミュニケーションのパターンについて自己理解を深め、周囲と安全なコミュニケーションをとる。
その手段としてカウンセリングを活用するケースもとても多いです。
長年染み付いた癖は、自分一人では直せないこと、そして何より自分自身では気づけないことも多いからです。
社員のコミュニケーションの問題で頭を悩ませている人事担当者の方、そして経営者の方。
こうした問題は、組織内だけで抱え込む必要はありません。
「カウンセリング」「コンサルティング」を解決の選択肢の一つとして、まずは一度、お気軽にご相談ください。
専門家と一緒に今の状況を紐解いていくことが、孤独に悩む本人と、疲弊する周囲の双方を救う、最も近道な解決策になるはずです。

最新記事 by AIDERS 代表 山﨑正徳 (全て見る)
- ディベート・ハラスメントの正体 |「論破」ではなく「意味不明なだけ」。 - 2026年2月11日
- 「傍観ハラスメント」はなぜ起きるのか。ハラスメントが蔓延する機能不全組織の特徴を徹底解説。 - 2025年4月25日
- 注意するとすぐに「パワハラですよ」と言うハラハラ社員への職場の対応方法 - 2024年12月17日












